【季節のテーブル】薄が原の「十三夜」

名にし負う 月待ち顔の 薄かな

【大紀元日本11月3日】樋口一葉の『十三夜』は、虫の音がたえだえに聞こえ風の音が寄り添う晩に、さやけきお月様がぽっかり浮かんだ明治の十三夜。『松尾芭蕉庵十三夜』では、更科日記の道すがら姨捨て山に上った仲秋の月を、帰ったばかりの江戸で見上げた月の中に面影を偲んだ江戸の句会の十三夜。もちろんあたりは、薄がいっぱいの晩であったはずです。

日本の行楽地で行われる「すすき祭り」や、ご家庭でひっそり愛でる十三夜の月見には、薄の風情が欠かせません。銀色に波打つ原っぱに出会うところで薄は、いつも日本の原風景を思い起こさせる風物詩です。茅葺きの屋根や、炭俵の温もりや、船頭小唄など・・・。「おれは川原の 枯れすすき、同じお前も 枯れすすき、どうせ二人は この世では、花の咲かない 枯れすすき」(野口雨情作詞、中山晋平作曲)

この世で花の咲かない二人の枯れすすき(男女)を、日本的な侘しい定めの抒情でもって照らす月の光が、二人の薄い幸せを優しく抱擁して異界へと導いていきます。森繁久弥さんが歌って、昭和歌謡の原型的なヒットスタイルを作り上げました。日本的な薄が原からの船出を歌った、昭和の十三夜を象徴する物語でした。

そして平成18年の薄が原の十三夜(11月3日)のお月様は・・・、あたり一面に薄幸の光が押し広がる時代精神の荒野の只中で、今宵もまた素直に凛として日本流に輝いていらっしゃるのです。もちろん今年も薄はチャント供えてのお祝いです。

(イザヤ・パンダさん)