百草を毒味する神農

【大紀元日本12月28日】神農(しんのう)氏の母は、華陽で遊んでいる時に、神龍の徳に感応して、姜水のほとりで神農氏を産んだと伝えられる。神農氏は生まれて三日目にして口をきき、五日目で歩き、七日目で歯が生え揃ったという。三歳から遊びで農事のまねごとをしていた。大人になった時、身の丈は八尺七寸、たくましくて威厳があり、立派で男前だった。

神農氏は、木を切って鋤(すき)や鍬(くわ)を作り、人々に、それらを使って畑を耕すことを教えたことから、後に「五穀神」と呼ばれた。また、彼は百草を毒味し、365種類の薬草を識別したことから、「薬王」とも呼ばれた。

彼はまた、深夜の暗さに不便を感じたため、八方手を尽くして、照明用に、燃えやすい草木を探し出して、蝋燭(ろうそく)を作り、火を司る役人も設置した。そのため、彼は「炎帝」とも呼ばれた。

彼の事績の中で最も有名なのが、百草を毒味する話である。

上古時代、五穀は雑草と一緒に生え、薬草は百花と一緒に生えており、どれが食べられるのか、どれが病気を治せるのか、誰も区別できなかった。当時、人々は猟をして暮らしていたが、空を飛ぶ鳥も、地上を走る獣も次第に少なくなり、人々はお腹をすかしているしかなかった。また、病気になっても、医者も薬もなくて、死ぬのを待つしかなかった。

神農氏はそれらを目にして、心が痛んだ。彼は太一皇人(たいいちこうじん)が医術に精通しているのを知って、教えを請いに行ったが、皇人はちょうど留守で、留守番の弟子しかいなかった。

彼は皇人の弟子に、「古人の寿命はみな百歳を超えるのに、現在の人はどうして天から授かった年齢に達しないうちに若死にしてしまうのか」と聞いた。すると、皇人の弟子は、「今の人が短命なのは、体を養生することを知らないし、病気になってからも治療術が分からないからだ。そのため、病気は重くなる一方で、若死にするのだ」と答えた。

皇人の弟子は、帰って研究するようにと、『天元玉冊』という本を神農氏に渡した。

神農氏は、帰ってからその本を詳しく読み、とてもためになった。しかし、病気を治す良薬はどこに行けば見つかるのか。彼はありったけの知恵を絞って、まる三日間思索に耽り、やっと思いついた。

彼は一群の臣民を連れて、ふるさとの随州を出発して、西北の山に向かって行った。 河を何本も渡り、山をいくつも越え、どれほど歩いたか分からないほど進んで行った。太陽が49回目に東から昇ってきたとき、彼らはある所に着いた。そこは、山が幾重にも重なり、峰と谷が縦横に交差し、薄雲と霧が流れ、香気が漂っていた。

彼らが山を登ろうとしたとき、突然峡谷から一群の野獣が襲ってきた。神農氏は臣民たちに神鞭を使わせて追い払おうとしたが、野獣は次々に現れ、結局まる7日間かかって、やっと野獣を退治した。

臣民たちは、ここは危険すぎるから帰ろうと神農氏に勧めたが、彼は「多くの人々が食べる物もなく、病気になっても治せないのだから、私たちは帰れない」と言って、真っ先に峡谷に入り、ある大山の麓に着いた。

その山は、天を突き上げるかのごとく高くそびえており、頂上が見えず、四方は断崖絶壁となっていた。梯子がないととても登れなかったため、臣民たちはまた帰ろうと勧めたが、神農氏は決して帰ろうとはしなかった。

彼は石山に立って、四方を見渡し、何かいい方法はないものかと思案していた。すると、突然、何匹かのサルが、高くぶら下がっている藤のつると崖越しに倒れ掛かっている朽木に沿って渡って行った。そこからヒントを得た神農氏は、臣民たちに木と藤のつるを切って、山の崖に沿って足場を作らせた。一日に一段作り、丸一年かかって365段作り上げ、やっと山の頂上に着いた。

彼は山頂に着くと、昼間は臣民たちとあらゆる草木を嘗めて毒味をし、夜になるとたき火を起こして、どの草が苦くて、どの草が体を熱くさせるのか、どの草に解熱作用があるのか、どれが食べられるのか、どれが病気を治せるのかを全てはっきりと記録した。一日に70数種類の草を毒見して、連続70数回中毒したときもあった。

神農氏は、毒味を49日間続け、全ての峰々を渡り歩いた。麦、稲、粟、豆、高粱(こうりゃん)が飢えをしのげると分かったので、臣民にその種を持って帰らせ、人々に栽培させた。これが現在の五穀である。また、彼は毒草と薬草を区別して、365種類の薬草を発見すると、『神農本草経』という書にまとめて、世の人々の病気治療に使わせた。

神農氏が下山しようとしたところ、登るときに作った足場はすでに姿を消し、藤や木などが根を張って、あたり一面樹海となっていた。困っていた彼のところに空から白鶴が飛んできて、彼と何人かの臣民を背に乗せて、天国へ連れていったと伝えられる。

神農氏が百草を毒味して、人々に幸福をもたらしたことを記念するために、後の人はその樹海を「神農架」と名付けた。

(文・清言)