【ノンフィクション】ナンシーのカルテ(1)

【大紀元日本8月14日】「先生、私はどうしてこんなにも不幸なのかしら?」ナンシーは診療室で、涙ながらに私にここ数ヶ月間の出来事を訴えた。

ナンシーは、「私は、自分の誕生日に自分が末期の乳がんであることを宣告されました。まったく心の準備もなく、すぐさま手術室に運ばれました。その間、考えられないことが、起きるはずのないことが起きたのです。とにかく、私に係わるすべてのことにミスがありました。先ずは血液検査のときに、看護士が私の血管を見つけられず、それから、診療してくれた医師が脳卒中にかかってしまいました。さらに、私の手術に使われるはずだった管が東部から送られたはずなのに、どこの病院へ行ったのか分からなくなってしまいました...人生の目標がなくなったかのように、すべてのことに方向を失ってしまったのです」と語った。

さらに、「とんだ間違いの中で、やっと手術が終わって、両方の乳房は切除されましたが、退院後しばらく経っても、傷口は一向に回復しませんでした。家から病院へ通う途中、交通事故に遭い、まだ癒えていない傷口が再び開き、手術室へと運ばれました...」と訴え続けた。

私はあっけにとられて、「すべてのことには必ず何か原因があるはずだ。何故この患者の回復はこうも遅くて、しかも困難に遭うのだろうか?もしかして、彼女の心に問題があるのではないか」と考えた。

私は彼女に、「あなたは何か心理的なプレッシャーを感じていたり、心の中で気になっていることなどないでしょうか?」と問いかけた。すると、彼女は手術中に彼女が経験したことを打ち明けてくれた。

ナンシーは全身麻酔による乳房切除手術を行った。手術を担当した2人の医師は、ナンシーが麻酔で何の感覚もなく、何も聞こえないと思い、手術中にいろいろな話をした。「...彼女は末期がんだから、手術と化学療法をしてももう間に合わないかも知れない...」という、会話の一部がナンシーの耳に入ったのである。ナンシーは手術後、すっかり落ち込んで生きる希望を失ってしまった。更に、手術前に起った様々なアクシデントが彼女の自信を失わせ、神が自分に与えてくれた命は、これが最後だと思ってしまったのである。これらのネガティブな精神状態が、彼女の傷口が癒えるのを遅らせていた。

原因を見つけた私は、担当医と話をするよう彼女に勧めた。ナンシーは同意し、看護士に連絡を取って彼女の経験を説明した。するとナンシーは担当医から、その時に話した患者は、実は別人だったと聞かされた。ナンシーは事情が分かると、二日で傷口が完璧に塞がった。

ナンシーが全身麻酔で眠っている間、医師たちの会話を聞いていたことを知った手術担当医は、当時の状況を話して欲しいとナンシーに頼んだ。ナンシーは次のように語り始めた。

「私は手術室に送られたとき、願いはただ1つでした。それは、手術中に、麻酔で死なないことでした。それが私にとって、最大の恐怖だったのです。何故なら、私の母親、伯父、叔母は、全員手術台の上で亡くなっています。明らかに、私の家族は麻酔薬に対してアレルギー体質であり、それを直す薬もありません。一旦麻酔薬が体内に入れば、アレルギー反応で死んでしまうかもしれないのです。ペニシリンやストレプトマイシンに対してショック症状を起こす人がいるように、麻酔でもショックを起こす場合があります。だから、私は感覚を完全に失いたくなかったので、医師に対しては必要最少量の麻酔薬を使用するよう頼みました。半分覚醒している状態で手術を受けたかったのです。でも、麻酔を打たれると、私は完全に意識を失ってしまいました」。(つづく)

(「新紀元週刊」より転載)