【ノンフィクション】ナンシーのカルテ(5)

【大紀元日本8月27日】ナンシーが私のクリニックを最後に訪れてから、だいぶ日が過ぎた。私の推測では、彼女の化学療法は第一段階と第二段階を過ぎたはずだ。知らせがないのはよい知らせだ、と自分に言い聞かせ、ナンシーが回復していることを願った。

ナンシーがクリニックを再び訪れたのは、私が彼女のことを考えていた矢先だった。彼女は、車椅子に乗せられて、体は三分の一くらいに萎んでいた。以前の彼女は、体が大きく、自信満々な感じだったが、今はとてもその頃の面影はない。最も驚いたのは、彼女の目、鼻、耳などから血が滲みでていることだった。血の滲んだ汗が、彼女の肌から流れていた。このような症状を、私は見たことがなかった。私は、ナンシーの夫に、彼女をすぐにでも救急病院へ連れて行くよう提案したが、意外にもナンシーは強い口調で反論した。「いいえ!もうあの場所へは、二度と行かないわ。もう一度行けば、私はもうその部屋から出ることができなくなる!」

ナンシーの目からは、血の滲む涙がこぼれた。彼女は、弱々しくなりながらも、これまでの経緯を話してくれた。

ナンシーは、彼女の症状は、化学療法による副作用だと話してくれた。通常、化学療法は、患者の反応を見ながら、薬の使用量が決められる。しかし、看護師は誤って、大量の薬をナンシーに投与してしまった。薬が投与されようとする直前、ナンシーは不吉な感情に襲われた。彼女は、もし何か自分の身に起きたら、もう一度私のクリニックを訪れるよう夫に頼んでいたのだ。

化学療法の後、ナンシーは高熱とともに意識不明の状態となり、体中から血が滲み、髪と爪が抜けてしまった。彼女は蘇生され、再び意識を取り戻した。ナンシーの夫は、彼女の言葉を思い出し、彼女を連れて私のクリニックを訪れた。

彼女は、意識を失ってからの状態を思い出し、私に話してくれた。「薬が投与されてから、私の体は火から氷に変わりました。そして、私は地獄を見たのです!それは、聖書に書かれたような地獄だったわ。最初に、私は火にあぶられました。私の肌が焼ける匂いは、今でも覚えています。次に、私の体は氷の穴に投げ込まれました。私の骨がボキボキと折れて、関節が外れていく音を聞きました。次に、私は鉄板の上で焼かれていました…」。

私は、言葉を失った。そして、「私に何かできることはないでしょうか?」と聞いた。

驚いた事に、ナンシーは私に瞑想のやり方を教えて欲しいと言った。

私は感動を覚えた。生命が、こんなにも大変な目にあっているのに、人生の意義をみつけようとする願いがあるのだ。しかし、ナンシーはまっすぐに座る事もできなかった。私は、彼女にいつから瞑想を始めたいかと聞くと、彼女は「すぐにでも」と答えた。すると私は、つい口が滑って、「命を長引かせるため?」と聞いてしまった。

ナンシーは、「いいえ。真の平和、調和、静寂を感じ、闘争や苦しみのない世界を経験するため…私の命が尽きる前に…」。
(つづく)

(「新紀元週刊」より転載)

(翻訳・田中)