<赤龍解体記>(8) 塩買だめ騒動の社会的背景

福島原発事故を発端として、中国では民衆の塩の買だめ騒動が起きた。この騒ぎは、非常識だとされているが、しかし当事者たちにとっては命や健康にかかわる重大で深刻な問題であった。

 ■政府通知や専門家のデマ批判は逆効果

 中国の塩にはヨウ素を添加したものがあり、その塩を摂取すれば、放射能被害を食い止めるという噂により、3月16日から中国の東南沿海地区を中心に広い地域でヨウ素添加の塩を買だめする騒動が起きた。ヨウ素添加塩の値段は一時数倍から数十倍まで値上がりしたが、それでも塩争奪戦は終止しなかった。

 3月17日、中国政府は通知を出して、中国の塩の産出量は年間8千万トンにも達している。年間消費量はわずか8百万トンに過ぎないし、備蓄されている食塩は3カ月も供給できるので、中国は塩不足にならないと公表した。

 それとともに、専門家たちも塩の買だめ騒動をもたらした荒唐無稽のデマを批判し、その非科学性などを指摘した。

 中央から地方まで、行政とマスコミも一斉にあらゆる方法で塩の買だめを止めようとしたが、力を入れれば入れるほど、食い止められないどころかかえって火に油を注ぐことになり、逆効果をもたらしてしまった。

 この塩騒動は結局、政府の呼びかけや宣伝によって沈静化したのではなく、人々が独自の方法で事態の真相を理解したことにより自ずと収まったのである。

 ■デマによって作られた過去と現在

 二桁の成長率を維持し続け、国内総生産が世界第二位に躍り出たにもかからず、中国は依然としてさまざまな問題を抱えており、今回の塩騒動により、民衆の持つ政府への不信感という深刻な問題があらためて浮き彫りになった。

 中国においては、「天安門事件」や「法輪功弾圧」のような政治運動から、「三鹿粉ミルク」や違法添加材「痩肉精」が添加された豚肉のような生活必需品まで、実に多くの真相が隠蔽(いんぺい)されている。中国人は、政府やマスコミが作ったバーチャルリアリティーの世界でしか生きていられないと言っている。

 したがって、一党独裁であり、情報規制が厳しく敷かれている中国では、あらゆる事件、とりわけ突発重大事故の真相を知ることは至難の業である。事件の真相を知ろうとすれば情報のカギを握っている体制内部からの秘密漏洩、いわば裏話に頼らざるをえない。これは、中国人が数十年間で得た教訓、習慣、知恵である。

 むろん情報規制がされ、真相が隠蔽されている環境において、デマも発生しやすく、人々の行動もそれに大きく左右されるのである。

 中国人は、政府・マスコミと社会の流言飛語で作られた歪んだ二重構造の社会に長く暮らしているため、自己防衛の本能が異常に発達しているように思える。そのため、いざ今度のような突発事件に出合うと、民衆はすぐに強く反応するのである。

 この現象から、中国社会の不安定で脆弱な体制、すなわち中国社会の現実と実態がはっきりと見て取れる。今回の塩騒動などは、民衆が政府やマスコミの情報よりも流言飛語を信じるという風潮があり、中共崩壊が引き起こされるという一つの可能性が示唆されている。つまり、デマを含めいかなる些細な要因でも中共の崩壊を招きかねないということである。

 

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