<赤龍解体記>(10)左寄り時代への方向転換

過去一年間、中共政治局常務委員の習近平、李長春、賀国強、周永康および18人の中国人民代表大会副委員長が、走馬灯のように重慶市を視察し、重慶市トップ薄煕来の「唱紅打黒」(革命の歌を歌い、マフィア組織を打撃する)活動を支持した。

 4月8日から10日まで、中共ナンバーツーの人民代表大会委員長・呉邦国も重慶を視察し、薄煕来の政治活動を「徳政」と絶賛した。

 今年中共誕生90年を迎え、18大の開催が来年に控え、これほど明確な政治的言動は中共未来の方向性を示したものとしか考えられない。

 ■ 薄煕来の政治剛腕が「徳政」とされる

 呉邦国委員長は重慶視察中、薄煕来が重慶で行われている政治活動を大いに評価する。彼は、低収入家庭のために建設した賃貸住宅と戸籍制度の改革は、党中央の「人を本とし、民のために執政する」精神を現わし、革命の歌を歌い、マルクス・毛沢東の著作を読み、中共革命の物語などを語り、名言を伝える市民活動は、社会主義の核心的価値を現わしているものと話す。

 そして、マフィア組織を取り締まり、腐敗を根絶する活動は中共の幹部が民衆との関係を近づかせ、人民がより中共を信頼するようになったと褒め称え、薄煕来の政治活動を「徳政」と絶賛する。

 ■ 中共は左へ転向せざるを得ない

 改革開放を実施して以来、経済高成長が続く一方、環境から社会までさまざまな問題を生み出し、官僚の腐敗や特権、貧富格差などがもっとも深刻なものとなり、中共の独裁政権の基礎が大いに揺るがされている。

 政治の諸弊害を削除する方法として、自由・民主・平等などを基本とする市民社会の建設、つまり政治改革を行うことによって法に基づいて解決するのが望まれるものであり、有効で根本的な措置と思われるが、しかし今の中共にとって、これは危険すぎるというよりも自殺行為にすぎない。広東省が模索していた市民社会の建設が中共指導部から否定されたのが、その裏付けとなる。

 上記の社会問題が深刻化するにつれ、生活がある程度豊かになったが相当の格差がある今より、多少貧乏であっても皆ほぼ平等であった毛沢東時代のほうがましだ、社会のどん底に暮らしている一部の人(インテリを含む)は往時を懐かしむようになる。しかも、近年来この懐旧感情が社会全体にじわじわと浸透し、次第に一つの民意となりつつあるのである。

 薄煕来はタイムリーにこの「民意」をキャッチし、「唱紅打黒」運動を展開し、次期常務委員会入りへの道を切り開くのである。

 ■ 左寄り転向のメリット

 歪んでいるものだが、一部の国民の懐旧感情がまさに中共が望んでいるものであり、中共が自ら醸してきたものでもある。この態勢では、崩壊のリスクが避けられると共に多くのメリットも伴う。

 まず、左への転向をもってマルクス・毛沢東思想を中国で復活させる転機とし、旧来の愛国主義教育や共産主義思想教育などの赤色洗脳活動を順当に実行しうるようになる。今年7月1日は、中共誕生90周年記念日であるが、この左への転向は間違いなく時勢に合うベスト選択である。

 薄煕来は赤色の政治活動を復活させつつ、マフィア組織の取り締まりや人々の平等をもスローガンにしているので、暫時的ものとはいえ一部の民衆に一筋の光を見出させている。これは、迷走する中共にとってたしかに難関打開の突破口を示したのである。

 つまり、左への転向によって、中共は国民へのコントロールや従来の赤色政治体系の再建もできるし、自らの延命を図ることもできるからである。これはおそらく、胡錦涛や習近平をはじめ、毛沢東時代で成長してきた政治局常務委員の多くが描いた理想図であり、中共の未来を賭けた唯一のカードなのだろう。

 

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