<赤龍解体記>(16) 金総書記の訪中、嫌でも止むなき内実

北朝鮮の金正日総書記が20日から26日まで、最近1年間で3回目の訪中を行った。今回の訪問は唐突の感を免れないため、その真意がさまざまに憶測されている。

 中国共産党中央対外連絡部は26日、この訪問を「非公式訪問」とし、金総書記は胡錦涛総書記との会談で「できるかぎり6カ国協議の早期再開」を主張し、北朝鮮は「力を集中して経済建設を推進し、安定した環境を非常に必要としている」と強調したと発表した。

 旋風のような今回の訪問の背後に何があったのか。その実情を熟知する中共対外連絡部のある官員が5月25日、その舞台裏を披露した。

 ■非常時における相互利用の訪問

 博迅5月25日の報道によれば、金総書記の訪中に関わった、中共対外連絡部のある官員は、今回の金総書記の訪中の背景と原因を次のように述べた。

 米国がビン・ラディン容疑者を殺害した後、金総書記はきわめて危惧し、朝中関係のよりいっそうの強化を求めた。今回の訪中は実は臨時的な決断であった。

 金総書記の要望に対し、中共内部の強硬派も自由社会との間にバランスをとる力を強めるべく、米国や日本などに対抗しうる切り札として手にしなければならないと主張している。

 一昔前、中共はロシアを自由社会に対抗するパートナーとして大いに抱き込んでいたが、メドベージェフ大統領が就任後、対中関係を調整し、とりわけイデオロギー面において両国は表では仲よくしているが、裏ではしっくりいかなくなっている。したがって、北朝鮮のような忠実なパートナーが得難いものとして大いに重んじられるのである。

 すなわち、金総書記は1年間に3回も訪中しているが、毎回、中米関係が危機に陥った時期ではなく、逆に中米関係がよい方向に転換している時期なのである。むろん、これは決して偶然のことではなく、そこには中共なりの打算があるというわけである。

 その打算について、前記の官員は直言していないが、最終的な目的は危機に陥っている中共の独裁体制を維持することであろう。

 

 ■金総書記の訪中は実に迷惑なものだ

 今回の訪問で、金総書記は専用列車や高級乗用車で東北から北京、上海、揚州、南京を歴訪した。彼が行く先々で通行止めが行われ、地元の人々に多大な迷惑をかけ、「ゆすり取りもの」などと不満や罵声を浴びせられていた。

 中共対外連絡部の官員も、北朝鮮は中共に数々の迷惑をかけ、中共のリスクになりつつあると不満を漏らした。

 第1に、北朝鮮は、後継者や経済危機などの問題により、国内動乱が随時に起きうるため、その後ろ盾をする中共はそれなりの代償を支払わなければならず、それによって中国国内の危機も引き起こされかねない。

 第2に、米国の対テロ作戦が一段落したことにより、そもそも中共外交のカードとする北朝鮮は今後、厄介な存在になりかねない。

 第3に、中国の国民の中で、北朝鮮をマイナス的に捉える人が急増しており、これらの民意は懸念せざるを得ないのである。

 第4に、北朝鮮の指導者らはつけあがるもので、最近の訪中でも米国大統領同様の接待をしつこく要求し、両国関係においても米国と同様に対応するよう要求している。たとえば、1年前に北朝鮮はかつて中国の駐北朝鮮大使の赴任を拒絶した。その理由は中共の駐米大使より官位が一つ下だからである。これは中共の国際外交においてきわめて厄介なことになってしまい、結局は要求通りに元の大使を取り換え、中共駐米大使と同格の大使をあらためて派遣しなければならなかったのである。

 金総書記は以前は、ただ経済援助を要求しただけだったが、最近は政治面での待遇などでもいろいろ注文するようになった。今回の訪問も、重慶を視察したいと要求したが、中共側は鉄道の安全を理由に拒絶したという。

  ※  ※  ※

 中共の官員が上記のような秘密および不満を漏らしたのは、中共の意図的なものか否かは不明だ。しかし、世界情勢が激変する今、中朝の伝統的友情はもはや同じ穴のムジナが災難を逃れるための相互利用に褪色し、上位にあるはずの兄貴がならず者の弟から逆に巻き上げられるのも現実的になっているのだ。

 

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