出産を控える妊婦とベッドを整える看護師。2012年北京で撮影参考写真(WANG ZHAO/AFP/Getty Images)

「カナダは市民権を買えるショッピングセンターではない」中国人の国籍目当て出産ツアーに議員苦言

国籍取得の目的で海外から妊婦が来訪する「出産ツアー」の増加は、北米で問題視されている。現地メディアに取り上げられたケースの多くは中間富裕層以上の中国人家族。外国人の出産目的の入国は違法ではないが制度の悪用と見て、議員らは討議を検討している。

ニューヨークタイムズ(NYT)紙中文版1月10日付は、上海から来た臨月の中国女性がカナダ国籍を取得するためにバンクーバーで出産した例を挙げた。4か月間の現地での彼女の世話は中国人の家政婦が行った。

「子供の教育のための投資です」「カナダを選んだのは良い自然環境、社会環境だからです」渡航出産について、上海在住の飛行機客室乗務員の白さん(音訳)はNYT紙の取材に答えた。2018年初め、カナダ国籍を取得した新生児とともに中国に戻った。

記事によると、中国人向けの出産ツアーは商業化している。中国と出生地に運営者がいて、妊婦や産婦の体調管理、乳房マッサージ、買い物代行、中国人滞在者向けの出産に関する講演、さらにお茶会などの機会を提供している。

ブリティッシュコロンビア州リッチモンドは住民の5割以上にあたる20万人が中国出身者や家族だ。リッチモンド病院は、およそ5人に1人が非住民の出産で、国籍取得目的の出産ツアー希望者の間では名前が知れている。

ブリティッシュコロンビア州バンクーバーの中国人街の店舗、2009年撮影(Getty Images)

カナダの法律では、出生とともに赤ちゃんにはカナダ国籍が無条件に付与される。米国、ブラジル、メキシコなど30余りの国に同様の法律がある。英国とオーストリアは最近、少なくとも片方の親が当地国籍あるいは永住権を所有していることを条件に加えた。

日本では子供の出生による日本国籍取得は無条件ではない。法務省によると、親が日本国民である場合か、両親は誰か不明であったり無国籍である場合などに限っている。

出産ツアーの商業を受けて、カナダ議員は違法化を提案している。リッチモンド選出のジョー・ペスチソリド議員(保守党)は「出産ツアーは合法だろうが非倫理的であり悪辣な行為だ」と厳しく表現した。

NYT紙によると、2020年に控えた連邦議会選挙は移民問題が焦点になるとみられる。保守系野党は、出生による無条件の国籍付与の廃止を提言する方針だという。

公共政策研究所は、元政府移民担当局代表アンドリュー・グリフィス氏の報告として、カナダ非居住者でカナダ人の母親ではない子どもの出生件数は実際、公式発表の5倍に当たる年間1500〜2000件とみている。

グリフィス氏は、カナダの出生による無条件市民権付与は、カナダの平和と繁栄に貢献を願う人が得られることを想定していると説明した。

カナダの人気作家スペンサー・フェルナンド氏は自身のブログで、出産ツアーは「明らかにカナダの寛大な制度を利用している。さらに、長い手続きと努力でカナダの市民権を得た人々を侮辱している」と批判している。

渡航出産ビジネスで7店舗運営する中国人男性

2015年北京でヨガを行う妊婦たち。ギネス記録に挑戦している。参考写真(VCG/VCG via Getty Images)

NYT紙は、中国で出産渡航代理店を7軒所有するという中国人男性を取材した。彼によると、中国人の妊婦はカナダで臨月から出産後1カ月の計3カ月滞在し、期間中に赤ちゃんのパスポートを申請する。女性をケアする施設の滞在費は、2万5000米ドルだという。

「全員が中国に帰るよ。カナダの社会的利益は享受していないし、必要としていない」と男性は述べた。しかし、無条件市民権付与という制度を利用して出産渡航を商売とする男性の主張は受け入れがたい。

前述の客室乗務員の白さんとパイロットの夫の子供は、中国留学生よりも割安で現地カナダ人として大学を含む高等教育機関に通学させることができる。いずれカナダに移住する計画だという。

保守系野党のマクシム・バーナー人民党代表は出産ツアーの違法化を提言している。同氏はNYT紙の報道を受けて、相次ぎ外国から国籍取得のために妊婦が来訪するという事態に「市民権の概念を討議するべきだ」と主張した。

バーナー議員は、正規の手続きを踏んでカナダ市民権を得た人々を差し置いて、海外の富裕層が出産により国籍を取得するというショートカットは容認できないと主張する。

「カナダは、外国人が自身の子供のために市民権や将来の教育環境、就労条件を買い求めるショッピングセンターではない」

(編集・佐渡道世)

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