2012年3月カザフスタンで打ち上げられた、米ボーイング社製の「インテルサット22」通信衛星(STR/AFP/Getty Images)

中国当局、米の人工衛星を軍事に利用 香港企業経由で規制回避=米WSJ

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は23日の報道で、中国当局が米国の規制をかいくぐり、米企業の人工衛星を利用し、軍事通信や市民への監視を強化していると指摘した。

報道によると、米国の法律は、中国当局が直接、米企業が製造した人工衛星を購入することを禁止している。しかし、法律は衛星が宇宙空間に打ち上げられた後のブロードバンドサービスの使用については言及していない。中国当局は、香港にある米中合資企業が打ち上げた米国製の衛星9基のブロードバンドをひそかに借用している。

米プライベート・エクイティ・ファンドのカーライル・グループ(Carlyle Group)と中国国有コングロマリット大手の中国中信集団公司(CITIC Group)が香港企業のアジア通信衛星(Asia Satellite Telecommunications、AsiaSat、以下はアジアサット)を共同管理している。

アジアサットは米人工衛星の製造企業から人工衛星を購入する役割を担い、カーライル・グループは人工衛星購入に必要な米政府への申請書類の提出などを担当する。中信集団は、中国当局傘下の各部門にアジアサットのブロードバンドサービスを販売している。同サービスは、中国当局の宣伝活動、南シナ海などでの軍事通信、チベットや新疆ウイグル自治区などの監視活動に利用されている。

米政府の輸出規制では香港が中国の一部と見なされていないため、中国国有企業がアジアサットに一部出資したにもかかわらず、アジアサットは米の人工衛星を購入できた。

アジアサットはここ数年間で、米ボーイング社やスペースシステムズ・ロラール(SSL)などが製造した衛星9基を打ち上げた。

報道によると、アジアサットのブロードバンドサービスを販売する中信集団傘下の子会社は、同サイトで政府に協力している記述がある。それによると、2008年と2009年、中国当局によるチベットと新疆ウイグル自治区での騒乱を鎮圧する際、中信集団がアジアサットの人工衛星を通じて、当局の通信をサポートしたという。

アジアサットの収益のうち、4分の1が中国国内事業によるものだという。人工衛星購入によって、アジアサットは米国に約15億ドル(約1679億円)の経済効果をもたらしたという。同社のロジャー・トン(Roger Tong)最高経営責任者(CEO)はWSJに対して、アジアサットは、世界の大国である中国と米国が、今後いかに協力していくかの成功例だ、と述べた。

アジアサットは今年6月から、米政府が資金支援するメディアの米ラジオ・フリー・アジア(RFA)とボイス・オブ・アメリカ(VOA)の番組を放送しないと決めた。トンCEOはビジネス上の理由からだとしている。両メディアの中国語報道は、中国の政治・経済、民主化運動や人権問題などを中心に報道してきた。

米商務省関係者は、人工衛星の輸出取引が米国の安全保障に脅威を与え、人権問題などに関わる外交政策に反すれば、今後関連企業に輸出許可を与えないとした。

(翻訳編集・張哲)

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