トルコ、シリア北東部でクルド勢力を攻撃 地域不安定化に懸念強まる

[アクチャカレ(トルコ) 9日 ロイター] – トルコは9日、シリア北東部に侵攻し、テロ組織と見なすクルド人勢力を攻撃した。空爆を行った後、夜に入り地上戦を開始した。欧州など主要国は、内戦が続くシリアの情勢をさらに悪化させ、地域の不安定化につながる恐れがあるとして懸念を募らせている。

トランプ米大統領が同地域からの米軍撤収を表明してからわずか数日後の軍事作戦開始となったことで、米共和党の有力議員からもシリア北部で過激派組織「イスラム国(IS)」掃討作戦で米国に協力してきたクルド人勢力を見捨てたと批判の声が上がっている。

トルコのエルドアン大統領はこの日、シリア北東部でクルド人勢力を標的とした軍事作戦を開始したと表明。ツイッターへの投稿で「トルコとの国境に向けてテロリストの回廊が創設されることを防ぎ、同地域に平和をもたらすことが目的」とし、「シリアの主権を擁護し、地域社会をテロリストから解放する」と述べた。

トルコ政府がテロ組織と見なすシリアのクルド人民兵組織「人民防衛部隊(YPG)」や過激派組織「イスラム国(IS)」からの脅威を排除し、その後同地域に「安全地帯」を創設し、トルコにとどまっているシリア難民の帰還を目指す考え。

トルコ国防省は、夜に入りシリア北部で「地上作戦を開始した」と発表した。トルコのメディアによると、トルコ軍はシリアのテルアビヤドとラスアルアイン近郊の4カ所から越境した。

YPGを主体とする「シリア民主軍(SDF)」によると、空爆によって民間人少なくとも5人が死亡、SDF兵士3人が死亡、民間人少なくとも数十人が負傷した。

ロイターの記者は、テルアビヤドで複数の爆発が発生しているのをトルコ側から確認したと述べた。夜になってからは、ロケット弾がテルアビヤドに向かって発射され、近郊の町で炎が燃え上がっている様子が確認されたという。

CNNトルコの記者は、ラスアルアインでも大規模な爆発があり、建物から煙が上がっていると述べた。

トルコのメディアは、シリア側からも迫撃砲やロケット弾がトルコのセイランピナルやヌサイビンに向け発射されたが、負傷者などの情報は明らかになっていないと報じている。

トランプ大統領はこの日、トルコの攻撃を「悪い考えだ」とし、支持しないと述べた。

エルドアン大統領がクルド人を全滅させることを懸念しているかとの記者団からの質問に対しては、「そうなれば、私がトルコ経済を壊滅させる」と応じた。過去に課した対トルコ制裁に言及し、「過去にも壊滅させた」とした上で、「エルドアン氏が理性的に行動することを望む」と述べた。

トランプ大統領の米軍撤収の決定を巡っては、自身の共和党内からも批判が相次ぐ。

トランプ大統領に近い共和党の重鎮リンゼー・グラム上院議員は、クルド人勢力を支援しないことは「大統領の任期中最大の過ち」と非難した。同党のリズ・チェイニー下院議員も「米国は同盟を結んでいたクルド人勢力を見捨てた」と批判。トランプ大統領の決定が「米国の敵国ロシア、イラン、トルコを支援し、IS復活の下地を整えることになる」と述べた。

トルコによる攻撃について、ドイツ政府は地域のさらなる不安定化につながり、ISを強化することにもなりかねないと懸念を表明した。

国連安全保障理事会は欧州諸国からの要請を受け、10日に非公開の緊急会合を開く。報道官によると、グテレス国連事務総長はシリア北東部の情勢を「深く憂慮」し、「軍事的な解決策ではシリア内戦を収束できない」との考えを示した。

ユンケル欧州委員長は欧州議会で、欧州連合(EU)がトルコの安全地帯創設に資金を提供することはないと言明した。

シリアのアサド政権の後ろ盾とされるロシアとイランも、シリア北東部での情勢の収束に向けた行動を促した。ロシアはシリア政府とシリアのクルド人勢力との対話を呼び掛け、イランはトルコに対し軍事行動を控え自制するよう促した。

為替市場ではトルコリラが対ドルで0.5%下落し、主要な支持水準とされる5.85リラを割り込んだ。

*内容を追加しました。

 

トルコのエルドアン大統領は9日、シリア北東部でクルド人勢力を標的とした軍事作戦を開始したと表明した。写真はシリアのテルアビヤドでの映像から(2019年 ロイター/REUTERS TV)

 

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