APS・爆発反応装甲は機能せず複合装甲は貫通されている。本家本元のロシア製戦車を見た人民解放軍はどうなるのか?中国でライセンス生産している兵器は使えないし、人民解放軍向けに改造しても根本的な問題点は解決できていない(Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images)
上岡龍次コラム

世界から見た日本の安全保障 自衛隊の兵力は軍縮レベル以下

現在の陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊を合わせた自衛隊総兵力は約23万人。この総兵力で日本の国防が行なわれています。そして国際社会に協力するため、自衛隊を海外派遣しています。世界的に見て、この総兵力は多いのでしょうか?それとも少ないのでしょうか?

総兵力を決めるのは誰?

一般的に欧米では政治家が担当する軍政と軍人が担当する軍令に別れて運用されています。国防大臣は政治家が行い大統領・首相の軍政の補佐を担当します。参謀総長は軍人が行い、大統領・首相の軍令の補佐を行います。参謀総長は国防に必要な総兵力を見積もり、国防大臣に提出します。総兵力の見積もりは国防大臣から大統領・首相に提出され、議会で議論することで決定されます。このため参謀総長は総兵力の希望を提出するだけで、総兵力は各国の政治家が決定します。

世界から見た日本の総兵力

世界的にみて日本の総兵力は多いのでしょうか?欧米が使う総兵力の算出方法では、総兵力の算出は総人口を元にします。次に総人口の1%が総兵力の最大値になります。1%は100人に一人が軍人の数として理想的な配分です。何故なら社会は生産する人・運ぶ人・売る人に分かれています。

日本の総人口は2017年で約1億2000万人。次に総人口の1%は120万人。これが自衛隊総兵力の最大値になります。今の日本は少子高齢化なので、自衛隊に必要な年齢層は減少します。この少子高齢化の要素を加えると、自衛隊総兵力の最大値は約80万人です。

総兵力の最大値が有れば軍縮レベルの最小値が存在します。これは国ごとに変化は有りますが、軍人の数が総人口の200人に一人の割合0.05%だと大雑把ですが軍縮レベルになります。少子高齢化の影響があるので、自衛隊の総兵力の最小値である軍縮レベルは約50万人です。

総兵力の算出から見ると、自衛隊総兵力は最大で80万人、軍縮レベルで50万人になります。今の自衛隊総兵力はこの軍縮レベルの人数にも足らず約23万人だから、軍縮レベル以下の総兵力だといえます。

他の国を見てみると、アメリカは軍と州兵を含む総兵力が総人口の約0.58%。隣の韓国では軍の総兵力は総人口の約1.3%。それに対して日本の自衛隊は総人口の約0.19%。日本はアメリカ本土防衛を主任務とする州兵の様な戦力を持っていません。さらに徴兵制を採用する韓国と比べれば飾りの戦力と言えます。

軍縮レベル以下の自衛隊

自衛隊が戦後生まれたことは知られています。ですが誕生してから60年以上経過しても、自衛隊総兵力は50万人規模に到達していません。戦後日本には在日米軍が駐留し、韓国には在韓米軍が駐留しています。このため日本の安全保障は米軍に依存するようになりました。自衛隊総兵力は約23万人。これは軍縮レベル以下だから、長所は他の分野に資金を配分できたこと。そして世界から警戒されないことが長所と言えます。

安全保障を外国に依存するのは

戦後の日本は戦争を経験せず平和でした。しかしこの平和は日本独自に得たものではなく、在韓米軍と在日米軍がアジアに駐留しているから平和だったのです。これはアメリカの安全保障であり、在韓米軍と在日米軍がアジアのパワーバランスを維持しているのです。日本はアメリカの安全保障の中に存在するから、日本を攻める国が出なかっただけ。日本の政治家はアメリカの安全保障に依存し、日本独自の戦力で安全保障を行う意思を持っていません。しかし安全保障の観点から見るとこれは致命的な短所になります。

安全保障を外国に依存した例は紀元前から存在します。紀元前の地中海にギリシャ文明が存在し、その中にミロス島が存在していました。ミロス島は非武装中立を唱えており、仮に侵攻を受けた場合は「アテネかスパルタに救援を求める」方針だった。ミロス島は安全保障を外部に依存したのです。

しかしスパルタとアテネが戦争を開始し、後にペロポネソス戦争(紀元前431-紀元前404)と呼ばれるようになった。ミロス島が頼りにしていたスパルタとアテネが交戦。アテネは戦略的価値が高いミロス島を予防占領した。何故なら敵であるスパルタの手に渡れば戦略的に不利になる。だからアテネはミロス島を予防占領した。安全保障を外国に依存したミロス島の結末は悲劇です。

在韓米軍が撤退したら

アメリカの安全保障の枠の中で平和を享受してきた日本ですが、在韓米軍が撤退することになったらどうなるでしょうか?実は在韓米軍が撤退する可能性はこれまで何度か有りました。一つは駐留費の負担が原因。他には冷戦構造が終わり在韓米軍の価値が低下したのです。在韓米軍が駐留を継続するか、それとも撤退するかはアメリカ政府の判断。これに日本政府は意見を述べることは出来ても影響力は無いのです。このため仮に在韓米軍が撤退すると、アメリカの国防線は朝鮮半島から台湾・日本のラインに移動します。最悪の場合は、日本は第二のミロス島になる可能性もあります。

日本の安全保障は在韓米軍が駐留することが、いわば日本の防波堤となり、日本の安全保障は軍縮レベル以下の自衛隊総兵力23万人で対応できました。

ですが直接日本が北朝鮮・中国・韓国・ロシアに対して対応することになり、自衛隊総兵力23万人では対応できない状況に追い込まれます。これが日本の安全保障の短所であり、解決するには少なくとも軍縮レベルの50万人規模にしなければなりません。

短所を長所に変える 日本の取るべき道とは

在韓米軍が撤退するかは不明。しかし世界の各国がとっている安全保障の体制から考えると、日本は独自でも対応できる自衛隊総兵力50万人にするべきでしょう。50万人ならば軍縮レベルだから世界は日本を警戒しません。これは最新兵器を買いながら増員できる長所を持ちます。しかも自衛隊を雇用の受け皿として若者に提供する長所が得られます。そして基地関係の店や周辺の店にお金が落ちる経済効果が得られます。

問題なのは直ぐに50万人にはできないのです。戦力の質を維持しながら増強するなら、15年以上の年数で50万人規模にするのが理想です。年数がかかる欠点が有りますが、安全保障の強化・雇用対策・経済効果を15年間継続できる長所は有るのです。

 


執筆者:上岡 龍次(Ryuji Ueoka)

プロフィール:戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。

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