【ショート・エッセイ】
木を彫る
夏目漱石『夢十夜』の第六夜を、ふと思い出した。
鎌倉時代の仏師・運慶が、護国寺の山門で仁王像を彫っている。ところが語り手の「自分」も含めて、大勢の見物人はなぜか明治の人間ばかりなのである。語り手には「古くさい」と見える当時の装束に身を固め、一心不乱に木を彫り続ける運慶。すると語り手の傍で眺めていた若い男が、運慶の見事な所作を賛美し、「木の中に埋まっている仁王を鑿(のみ)と槌(つち)の力で掘り出すのだから迷いもなく正確なのだ」と解説した。
それを聞いた「自分」も仁王が彫ってみたくなり、家に帰って片端から木を彫った。しかし仁王は出て来ない。「ついに明治の木にはとうてい仁王は埋まっていないものだと悟った」と、その最後部で漱石は「自分」に完敗を認めさせている。
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