【紀元曙光】2020年5月26日

心がすさむネット動画を見たので、まずは「寅さん」で気分を直す。
▼旅先の車寅次郎が「五百円札」を風に飛ばしてしまう。それを拾ってくれた親切な老人は、世が世ならお殿様に当たる藩主の家柄。そんなことを知るはずもない寅さんは、「おっと、お礼しなきゃいけねえ」と露店のラムネ、あのビー玉を抜いて飲む炭酸飲料を買って「殿様」にごちそうする。
▼「甘露じゃな」とご満悦の殿様に、「どうした、爺さん。せがれの嫁に、家を追い出されたのか」と、いつもの無遠慮な口ぶり。そんな映画のワンシーンを思い出したのは、寅さんが、時代を超えて日本人に愛される理由について考えてしまったからだ。
▼無教養で自由奔放、柴又の家族に心配ばかりかけている車寅次郎。しかし、実は非常に義理堅く、きちんと「寅の礼儀作法」を貫いている。お礼の1本のラムネは、寅さんにとって欠かせない、人間の筋道なのだ。
▼24日、香港でのこと。デモを鎮圧する「公務中」の警官が、店の商品であるペットボトルの水を持ち去った。はて、こういう行為を何というのだろう。どろぼう、窃盗、万引き、どれもしっくり合わない。あ、そうか。これが「国家安全法」で取り締まるべき「社会転覆を企む行為」だ。警官が、お手本を見せてくれたのか。
▼と、皮肉の一つも言いたくなる。「そんなの中共だから当然だ」と、私たちの側が飲み込んで「理解」をする必要はない。むしろ、この恥部を映像に撮られたことが、歴史的意味として大きい。暴力、破壊、略奪、欺瞞。中国共産党の全てが、15秒に、見事に凝縮されている。