【紀元曙光】2020年8月4日

先日亡くなった李登輝氏への声望は、今こそ同氏の精神に学ぶという意味で、日本でも、ますます高い。

▼一国の大政治家であるが、敬意と親しみを込めて「李登輝さん」と呼ばせていただいている。その李登輝さんが90歳を過ぎてからの、日本での講演を動画で拝聴しているが、なんと力強く、聴衆を引きつける魂の日本語であることか。

▼筆者の理解で恐縮だが、李登輝さんがおっしゃることの根幹は、「日本は、すばらしい国なのだ。だから、あなたたち日本人は、もっとしっかりしなさい!」であろう。終戦時は日本の陸軍少尉で、「22歳まで日本人だった」という李登輝さんが、今の日本国民へ向けた、愛情あふれる叱咤激励である。あるいは、自身の最晩年に言い遺したかった、日本人への願いでもあっただろう。

▼その李登輝さんが青年の頃、愛読した本のなかに、新渡戸稲造『武士道』がある。もとは新渡戸が欧米人むけに著した小冊子だが、外国人が日本人や日本精神を理解する資料として、岡倉天心『茶の本』と並んで重要とされる。いずれも原著は英語で、前者が日清戦争後の1900年、後者が日露戦争後の1906年に出版された。それはまさに新興国である日本が、世界史の表舞台に登場した時期であった。

▼その本(岬龍一郎訳)を、何年ぶりかで机上に開いた。若き日の李登輝さんが自身の血肉とした日本精神を、筆者も再発見してみたい衝動にかられたからだ。

▼武士道の重要性については、司馬遼太郎さんも生前述べていた。「その(武士道という)微弱なる電気を、もう少し強くしたほうがいい」。(次稿へ続く)