【紀元曙光】2020年8月14日
(前稿より続く)明治以降、武士道にやや近い概念として、大和魂という言葉も多用されるようになった。
▼日本が不利な戦局となった大戦中期から末期には、その精神のみを武器とする肉弾攻撃を盛んに行ったが、敵の巨艦はなかなか沈まなかった。ただ日本人が、海外に出て事業を始めたり、未開のジャングルに入植して農地を拓くことを目指したとき、この大和魂が、強靭な精神力の源となったことは日本人の誇りとして記憶してよい。
▼新渡戸『武士道』は「武士の情け」についても触れている。「もっとも勇気ある者はもっとも心優しい者であり、愛ある者は勇敢である」。「それはサムライの慈悲が盲目的な衝動にかられるものではなく、常に正義に対する適切な配慮を含んでの慈悲であった」。
▼私たちはここで駆逐艦・雷(いかずち)の艦長・工藤俊作(くどうしゅんさく)を思い出す。時は1942年2月、太平洋戦争の初期で、まだ日本軍が優勢であった頃である。インドネシアのスラバヤ沖海戦で、英海軍の駆逐艦エンカウンターをはじめ数隻が、日本海軍の攻撃で沈んだ。海面に漂う生存者も、まさに力尽きようとしていた。
▼それを発見した工藤艦長の命令は「敵兵を救助せよ」。敵潜水艦による報復攻撃という極度の危険のなかで、乗員200名ほどの小艦である雷は、422名の英兵を救助した。
▼軍人である以上、戦いとなれば敵を倒して勝利しなければならない。しかし、工藤艦長が海軍兵学校で教えられた武士道は、敵とはいえ漂流する生存者を見捨てなかった。「武士の情け」も命懸けであり、決して軽いものではない。(次稿に続く)
関連記事
がんは「どこにできたか」より「どんな遺伝子異常か」で治療が変わる時代へ。がん種横断治療の考え方と代表マーカー、限界点を整理します。
人工甘味料飲料も糖質飲料も、脂肪肝の発症リスクを高める可能性があることがヨーロッパの大規模研究で判明。毎日の飲み物の選択が肝臓の将来を左右します
痛みや不眠、ほてりまで処方が広がるガバペンチン。本当に万能薬なのか、それとも見過ごされがちなリスクがあるのか。急増の背景と最新研究から、その実像に迫ります。
しっかり寝ても取れない重だるさや頭のもやもや。その正体を中医学の「湿気」から読み解き、体を軽く整えるためのサインの見分け方と、今日からできる自然な対処法を紹介します。
高級ブランドよりも、静かな時間とプライバシーが富の象徴に。スーパー富豪たちの価値観は、いま大きく変わっています。見せびらかさない「本当の豊かさ」の正体に迫る一編です。