【紀元曙光】2020年12月8日

四書五経の一つである『孟子』に、こんな話がある。
▼「人は、他人の不幸をだまって見ていられないものである。例えば、幼児が井戸に落ちる場面を見かけたらどうするか。誰でも、すぐさま飛んで行って助けるではないか」。昔の中国だけでなく、どこの国の人だって同じだ。助けなければ後で周囲から非難されるだろうが、「非難されるから助けるのではない。人の性は、もとより善なのだ」と、『孟子』はまことに丁寧に人間を説く。
▼そうした性善説とは真逆のことが本当に起きた。17歳といえば、悩み多き年頃とはいえ、それ以上の夢や希望にあふれた、輝くような青春であろう。中国安徽省の川で、その年齢の女子高生が入水自殺したという。
▼自殺の理由は分からない。ただ、数人の警察官が、それを岸辺で見ていた。声ぐらいかけたのかも知れぬが、水に入って救助することを躊躇したため手遅れとなり、この将来ある若い女性を助けられなかった。こういうのを何と言うのだろう。職務怠慢か、自殺ほう助か。いや、そもそも警官側の人間性の欠如か。
▼小欄の筆者は、不快な頭痛を覚えるばかりで、よく分からない。痛ましい限りだが、一つだけ亡くなった本人の名誉のために小欄が代弁しよう。彼女は死にたかったのではない。心の底から、生きたかったのだ。
▼中国の警察官と聞いて、私たちが親しみある「日本のお巡りさん」を想像してはならない。筆者の周囲の中国出身者にたずねると、まず間違いなく、こう答える。「あれは日本の反社会集団と同じです」。香港警察の「暴徒」ぶりを見れば、よく分かる。