焦点:中国全人代で審議の選挙制度改革、香港に新たな「激震」

[香港 2日 ロイター] – 今週開幕する中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)では香港の選挙制度改革が審議される見通しだ。香港政治に新たな「激震」をもたらすとみられている。

複数の政界関係者によると、改革案は民主派に一層の圧力となり、一部親中派からは懸念の声が上がっている。

改革案の説明を受けたある関係筋は「香港の政治的利益を揺がす地震になるだろう」と語った。

中国政府高官の夏宝竜氏は先週、「愛国者」のみに香港を統治させる制度変更を取り入れると述べ、改革案の内容を示唆していた。

親中派雑誌「紫荊(バウヒニアマガジン)」が今週公表した発言全文によると、夏氏は香港の選挙制度は香港の状況に合致するよう「設計」されなければならず、非愛国者や「反中扇動者」を排除しなければならないと指摘した。

同氏は詳細については触れなかったものの、関係筋や地元メディアによると、香港立法会(議会、定数70)の選挙改革や、次期行政長官を選ぶ委員会の構成の変更が盛り込まれる見通し。

ベテランの民主派はすぐさま改革を非難。元立法会議員の李卓人氏は「将来の民主主義への期待を完全に打ち消すものだ。夏宝竜氏の構想は共産党が香港を統治し、共産党を支持する者だけがポストを得られるというものだ。完全な一党支配だ」と語った。

改革案の内容は行き過ぎだと考える親中派もいる。

親中派の政治家で香港の中央政策小組のトップを務めたこともある邵善波氏は夏氏による説明会後、記者団に対し「やり過ぎて患者を殺してはならない」と指摘。昨年の「香港国家安全維持法」施行で反体制派は既に無力化しており、香港政府は「政策を円滑に推し進める」ことができている、との認識を示した。

中国政府にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

香港政府は声明文で、「愛国者が香港を統治する」原則の実行を優先しているほか、選挙制度を改善しており、この問題に対する意見の聞き取りを続けるとした。

<政治的計算>

選挙改革は一定の自治を維持し、法による統治と市民の自由を基に国際金融ハブの地位を築いてきた香港を直撃する新たな政治的地震だ。2019年の大規模抗議活動を経て、香港の雰囲気はこの1年半で劇的に変貌した。

香港の民主派活動家47人が2月28日、香港国家安全維持法違反を理由に起訴された。民主派が昨年7月、立法会選挙に向けた非公式の予備選を行った問題で今年に入って55人が逮捕されており、香港警察はこのうちの47人を、国安法に定められた国家転覆の共謀罪を適用して起訴した。

関係筋は、一連の民主派取り締まりは一定の効果を上げているものの、中国政府は民主派を依然として恐れていると指摘。「彼らは検討した結果、何も手を打たないのはリスクが大き過ぎると考えた」と述べた。

親中派のベテラン政治家2人は匿名を条件にロイターに対し、民主派の取り締まりで既に国際的に批判を浴びているところに選挙改革を実施すれば、最終的に香港の特異な特徴、多元主義、投資家を引き付ける魅力を損ないかねないと指摘。このうちの1人は「香港がこの段階まで後退したことは本当に悲しい。我々は引き継いだ時よりも悪い状態で香港を次の世代に引き継ぐことになる」と語った。

香港の親中派政治家が匿名とはいえ、中国の対応に疑問の声を上げるのは異例だ。

2人目の政治家は「もはや何も正常ではない。これは新たな『非正常』だ」と述べた。

(James Pomfret記者、Clare Jim記者)

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