古代中国の物語

諸葛孔明――その妻は本当に醜かったのか【千古英雄伝】

古代中国では、結婚式の際に花嫁が「紅蓋頭(ホンガイトゥ)」と呼ばれる大きな赤い頭巾をかぶる習慣がある。実は赤い頭巾を最初に使った女性は諸葛孔明の妻・黄月英であるという言い伝えがある。

黄月英は沔陽(ミェンヤン・現在の湖北省仙桃市)の役人、黄承彦の娘として生まれた。幼い時から勤勉で兵書(戦術などを記した本)を読み、天文、地理等どの学問にも精通し、文才があり、戦いの策略を立てることに優れていた。

一説に、彼女は大柄でガッシリとした体型だったため、「醜女」とされていたと言われている。また一方では、実は容姿端麗であったためにまわりの若い女性から嫉妬され、その容貌をけなされていたという説もある。しかしながら、彼女はそんなことを気に留めなかった。なぜなら、彼女の中では結婚相手の条件が決まっていたからだ。やがて結婚の時期が迫り、諸葛孔明が博学で人柄もよく、尊敬に値する人物であると聞いた黄月英は、父親にある提案をする。それは、諸葛孔明の心を確かめるために、自分の容貌がひどく醜いと彼に伝えてほしいということだった。

そこで父親が諸葛孔明に、「私には黄ばんだ髪で色黒の醜い娘がいますが、彼女には素晴らしい才能があり、あなたにふさわしいと思うのですが」というと、彼は意外にも、迷うことなくすぐに結婚を承諾した。彼は以前から黄月英が聡明であることを知っており、この結婚を長らく待ちわびていたのだった。

後日、諸葛孔明が正式に結婚のあいさつをするために黄家を訪れると、突然どこからともなく2匹の犬が現れて襲い掛かって来た。騒ぎを聞きつけた女中がやってきて2匹の頭をたたいて耳をひねると、驚くことに、先ほどまでの凶暴さは消え失せ、たちまち廊下に鎮座した。不思議に思って2匹をよく見てみると、実は木で作られたロボットだった。その途端、彼は笑いをこらえられなくなってしまった。隣で黄承彦が、「娘がいたずらをしているのです」と告げた。結局この日、諸葛孔明と黄月英が顔を合わせることはなかった。

そして迎えた結婚式の日、黄月英は、諸葛孔明がどんな態度で自分を妻として娶るのかを知りたくて、わざと顔が隠れるほどの大きな赤い頭巾をかぶることにした。頭巾をめくったときの彼の反応が楽しみだった。諸葛孔明は何も言わずに頭巾をめくった。しかしそこに美しい女性を目にして戸惑った彼は、何かの間違いだと思い込み、踵を返してその場を離れようとした。黄月英は慌てて彼を引き留め、これまでの経緯をすべて話した。それ以来、結婚式では、花嫁が「紅蓋頭」をかぶるようになったと言われている。

賢く聡明な黄月英は生涯、諸葛孔明を支え続ける良きパートナーとなった。また、諸葛孔明は一生、他の女性を娶ることもなかったという。

(翻訳編集・海花)