【医学古今】

腎気不足と便秘症

一般的に腎臓は尿の生成と排泄に密接に関係していることが知られていますが、排便機能にも強く関係していることはあまり知られていません。漢方医学の理論では、「腎は二陰を主(つかさど)る」という説があり、つまり、腎臓は前陰の排尿と生殖機能に関与している以外に、後陰の排便機能に関与していると考えられています。

 実際、高齢者の便秘症はほとんど腎気不足に関わっています。そのため高齢者の便秘症に対して、単に下剤で対応すると効果が徐々に弱くなり、あるいはまったく効かなくなることもあります。しかも、長期間に多量の下剤を使用すれば体調に影響も出て、胃腸機能障害、冷え症、腹痛、便失禁などの病状を起こしたり、悪化させたりする場合もあります。

 この場合、補腎剤を合わせると、下剤の効果が表れやすくなり、少量の下剤で通便効果があります。補腎剤の「八味地黄丸」と緩下剤の「桂枝加芍薬大黄湯」は非常に良い組み合わせで、多くの高齢者の便秘症はこれによって改善しています。

 かつて非常に頑固な便秘症の患者を治療したことがあります。彼は70代の男性で、長年の便秘症でずっと下剤を服用していました。しかし、下剤も効かなくなったため、数日に1度浣腸して便を出すようにしました。その後、浣腸しても便が出なくなり非常に苦しんでいました。これに対して「八味地黄丸」と「桂枝加芍薬大黄湯」を処方すると、翌日にはたくさん排便できてすっきりしたと言いました。その後、この処方を暫く服用したところ、非常に良い便通が維持できたのです。

 また、鍼灸の方法で治療する場合、腎気を補う腎経の照海穴(しょうかいけつ)にお灸をすれば、同様の効果が得られます。
 

(漢方医師・甄 立学)