【医学古今】

顔面神経麻痺の鍼灸治療

最近、顔面神経麻痺の患者を治療し、割合良い効果がよかったので、簡単にご紹介します。

 患者さんは50代の女性で、中国から親族訪問のために日本に来られた方です。先日、朝起床した後、右顔に違和感が現れ、瞼が重い、顔が腫れぼったい、筋肉の動きが鈍いなどの症状を感じました。彼女はこの病気に関してある程度知識を持っており、早期治療すべきと思って、すぐ当鍼灸院に来られました。

 外観から見れば、顔面部の異常はさほど見られず、表情筋の運動機能の異常もほとんど見られなかったため、顔面神経麻痺の初期症状として治療を施しました。

 体質的にはさほど問題はなく、一時高血圧がありましたが、最近薬を飲まなくても、血圧は正常範囲に落ち着いています。ただ、脈診では右手の寸口(すんこう)三部の脈はやや弱い感じでした。

 顔面部は主に陽明胃経が分布しており、右手の脈の弱さは陽明経の気血不足と考えられます。故に治療には主に陽明経のツボを取って行いました。ツボは曲池(きょくち)、合谷(ごうこく)、足三里(あしのさんり)、陥谷(かんこく)、風池(ふうち)、前頂(ぜんちょう)、太衝(たいしょう)、中脘(ちゅうかん)、天枢(てんすう)、気海(きかい)などを使いました。各ツボに置鍼をしたうえで、気海と足三里に温灸を施しました。

 治療後、顔の症状がすべて無くなりました。二日後2回目の治療のとき、右の顔がやや重く感じるだけで、他の症状は殆ど消えました。念のために、もう少し治療を続けた方が良いと考えて、今も継続中です。

 顔面神経麻痺は、大別すれば中枢性の原因と末梢性の原因があります。どちらの原因にしても鍼灸治療は効果があります。特に末梢神経障害によって起きた顔面神経麻痺の初期に、鍼灸治療の効果は顕著に現れます。

 漢方医学の理論では、顔面神経麻痺は「中風」の一種類だと認識されています。「中風」は邪気の侵入の深さによって中絡、中経、中腑、中臓に分けられます。中絡と中経は末梢神経障害であり、邪気の侵入は浅いから、治療しやすい。中腑と中臓は中枢性の神経障害であり、邪気の侵入は深いから、治療しにくくなります。

 (漢方医師・甄 立学)