shige hattori / PIXTA

「おいしい秋みつけた」夏に疲れた体を養生する食事法

日本の皆様、こんにちは。
私は台湾で、漢方医院の栄養士をしている陳品洋と申します。

日本には、秋口(あきぐち)という言い方があるそうですね。はっきり定められていないそうですが、およそ秋の初めの頃。ちょうど今頃の、9月下旬から10月上旬ぐらいの時期のことでしょうか。

不思議なことに他の季節(冬口、春口、夏口)は聞きません。その理由はよく分かりませんが、やはり秋には、他の季節にはない喜びがあるからこそ、「秋の始まり」に人々の意識が集中するのではないかと思われます。

猛暑や残暑が過ぎ、ようやく過ごしやすい爽やかな気候となった日々に、旬の季節の豊かな果物や野菜、さらに粒が輝くような新米がとれ始めれば、秋はまさに「天恵の季節」となります。

そんな嬉しい限りの秋ですが、「どんな食物を、どのように食べたら、夏に疲れた体の養生(健康増進)に資するか」について、これから少々エッセイ風の語りでご紹介して参りましょう。

「秋の扇」の故事
もう過ぎてしまいましたが、今年の立秋は8月7日でした。

もちろん立秋になったからといって、すぐに秋が来るわけではありません。暑い夏から少しずつ涼しい秋へ移行する過渡期であり、ましてマスクを外せないまま過ごした今年も、残暑は実に厳しいものでした。

台湾でいう本格的な秋の到来は「5日連続で、平均気温が22度以下」とされていますが、皆様の日本では、どのようでしょうか。

日本語にも、秋扇(しゅうせん)という言葉があります。典拠は中国前漢のころ、成帝の寵愛を受けた班倢伃(はんしょうよ)という女性がいましたが、同じく寵妃である趙飛燕(ちょうひえん)にその座を奪われてしまいます。

「夏が過ぎて、捨てられた秋の扇」のように帝の寵愛を受けなくなった我が身を嘆いて、班倢伃は「秋扇」を詩歌に残したといいます。後に、この故事に基づいて、日本の世阿弥(ぜあみ)が能の演目「班女」を作っています。
夏には手放せなかった扇を小箱にしまう秋。近頃は少し涼しくなってきましたが、まだ寒くはなく、せいぜい薄い上着を羽織る程度の気候ですので、散策に出かけるにはもってこいの季節です。

稲と火からなる「秋」 の字は、まさに稲穂が色づき成熟するという意味です。今年のお米も、まずまずの豊作で、なによりと存じます。

立秋に「瓜を食べる」
中華圏には、立秋のころに「咬秋(秋を噛む)」という風習があります。
これでは何のことか日本の皆様にお分かりいただけないと思いますが、実は「立秋の頃に、瓜を食べると体に良い」と言われているのです。

まだ熱い残暑のなかで、皆で一緒に西瓜を食べることも、この咬秋の習俗に合致します。この時期に、熱をもった体を冷やす瓜類を食べることで、残暑の暑気をはらうとともに、「冬から春までお腹を壊すことがない」と信じられているからです。

もう一つ、この時期に関係する伝統的な食習慣ですが、中国の北方に「貼秋膘」というものがあります。
「膘」とは脂身の肉のことで、「夏に痩せた分だけ、立秋すぎのこの時期、体に脂肪を取り戻す」という意味です。要は、久々のごちそうとして、各種の肉料理を大いに食べて「太ろう」ということですね。
健康維持の視点からは、ちょっと賛成しかねますが、中国人がもつ昔からの食習慣として見れば、なかなか興味深いものです。

時代が変わっても、こうした食文化は継承していきたいものです。ただ残念ながら、今の若い世代の人たちは、このような伝統を知らないようです。

「夏に損なわれた体」を養生する
立秋の後のこの時期の食事は、「辛い食物は少なく」「酸味のものと、肺を潤すものを多く食べる」ようにしてください。
秋の前の季節である夏には、猛暑のために「空気」まで歪んでいました。

そこで冷たい飲み物を飲むと、喉から体内に入って一時の涼しさを感じますが、風が草原を吹いて何層もの波風を起こすように、人間の体の中で(あまりの温度差のため)消化機能の乱れを引き起こしてしまうのです。
夏が過ぎたこの時期の食事は、そうした体のダメージを補うものが良いでしょう。

まずは、スープで米を炊いた粥(雑炊)で胃を養います。あっさりとした食事は、弱った胃腸の活力を補充するためのものです。

スープ粥は栄養が吸収されやすく、胃腸に負担をかけません。
同時に水分も補給できますので、喉の乾きを潤し、暑さで弱った体の不快感を緩和することができます。

中国語に「入夏無病三分虚」という俗語があります。「夏になれば、たとえ病気をしなくても、熱気のため、体内の3分の1のエネルギーが損なわれる」という意味ですが、確かにそうかもしれません。

夏の酷暑に蒸されて、体の五臓六腑のエネルギーは大いに消耗されました。
そのため、秋には体重の減少、倦怠感、脱力感などの症状が現れやすいのです。また口や舌の乾燥、鼻づまり、呼吸器の異常などが現れますので、「肺を潤す食物」を多く食べていただきたいのです。

これについては、漢代に編纂された中国最古の医学書『黄帝内経』に、「酸味が肺気を収束させ、辛味が肺気を発散させる」と記されています。

その方法について、少し具体的に3点申します。
「ネギ、生姜、ニンニク、唐辛子などの辛味は、できるだけ控える」。
「揚げ物、アルコール、スナック菓子などもできるだけ少なくする」。
「ゴマ、はちみつ、びわ、パイナップル、キュウリ、大根、ユリ、レンコン、シロキクラゲなどを多めに食べる」。
こうすることによって、乾燥で弱った肺を潤すことができます。

この時期に嬉しい「ブドウの特効」
甘酸っぱいブドウは、ちょうど今の時期に合っています。
秋に旬となる多く果物のなかで、何といってもブドウは一番人気ですね。

ブドウの一粒一粒は、まるで緑色の翡翠のようです。この時期のブドウがもつ適度な酸味は、人に鮮やかな五感を思い浮かばせてくれます。


夏の暑さで体力が消耗され、消化器系が弱っているこの時期に、ブドウは、肺を潤すほかにも、大いに健胃の役に立ちます。また、口と舌の乾燥を緩和し、肝臓を労わって養い、気血を補います。そのほか、利尿や、渇きの除去など、体への効能が実に多様であるのがこの時期のブドウです。

このように、旬の食材というのは、その時の人体が必要とするものを、見事なほど的確にもっているものです。神がつくった自然というのは、何と偉大なものでしょう。

人間は、その自然の一部です。
薬やサプリメントに過剰に頼るのではなく、自然の恵みをそのまま食して、健康な毎日を過ごしましょう。
(文・陳品洋/翻訳編集・鳥飼聡)