漢方からの提言「不眠は治りませんが、いつの間にか消えます」

世界睡眠医学協会(World Association of Sleep Medicine)が定めている「世界睡眠デー(3月18日)」というのがあるそうです。
これに、日本独自で定めた9月3日を合わせ、両日を春秋の「睡眠の日」として、睡眠の大切さを啓発しているとのことです。

それはまことに結構な活動と思いますが、人間は本来、健康に生活していれば、眠ろうと意識しなくてもよく眠れるものではないでしょうか。
 

不眠は「困った症状」ですが、病気ではありません
 

朝は希望とともに起き、昼は汗を流して働き、夜は感謝とともにぐっすり眠る。
そうした順調な営みができていれば、人は何も悩むことはないのですが、現代の私たちは、なかなかそういかない事情もあります。

概して言えば、各種の外的な圧迫が人の内面に不調をもたらし、心身の調整機能を歪めていることが少なくありません。そこで起きてくるのが睡眠障害の一種である「不眠症」です。

つまり眠れないことが「病気」として扱われるのです。西洋医学では「眠るための薬」を処方するわけですが、考えてみれば、悪い細菌やウイルスに感染したわけでなし、わざわざ病気のカテゴリーに入れなくても良いのではないかという気もします。

ただ一つ、あってはならないことは、その人を「鉄の箱」のような閉塞感のなかに置き去りにして、自殺させてしまうことです。これは本人のみならず、気にかけなかった周囲の責任でもあります。

心に悩みがあっても、きちんと食事をとり、よく眠れる人は、少なくとも自殺はしません。眠れないこと自体が病気なのではなく、多くは、眠りを妨げる要因が外在することで起きる体調不良なのですから、その点は見誤らないようにしましょう。

漢方から診た「不眠の原因」

漢方医学のもつ宇宙的体系を本稿に概括することは全く不可能ですが、そのごく一部を言うならば、体のどこかに問題が見られた場合、漢方ではよく、それに対応する「特定の臓器が不調である」という見方をします。

例えば、夜間よく眠れず、午前2時から4時ぐらいの間に目を覚ましてしまう人については、「肝臓または肺が悪い」と見立てるのです。

以下の図表を、ご覧下さい。1日の24時間には、それぞれ対応する12の臓器があります。
漢方の医師は、12経脈が人体の気血運行の主要な通路であるとともに、私たちが存在する物質空間とは別の、「他の時空」に存在すると考えています。

気血は、12の経脈の循環によって往復流動します。つまり気血は、全ての時辰(2時間)ごとに1本の経脈を運行するのです。これを12の経脈流注と呼びます。

経脈流注は順次に、肺経(3~5時)、大腸経(5~7時)、胃経(7~9時)、脾経(9~11時)、心経(11~13時)、小腸経(13~15時)、膀胱経(15~17時)、腎経(17~19時)、心膜経(19~21時)、三焦経(21~23時)、胆経(23~1時)、肝経(1~3時)と移っていきます。

12経脈流注がおこなわれる「他の時空」での気血運行は、私たちが存在するこの物質空間の臓腑を導き、各種の生理活動を産生するのです。

臓腑とは、肝臓、心臓、脾臓、肺、腎臓などの五臓と、胆、胃、小腸、大腸、膀胱、三焦などの六腑、つまり「五臓六腑」のことを指します。

本稿では「不眠」に絞って言及しますが、総論としては「人体のいかなる内臓の機能不全も、それぞれ不眠を引き起こす」のです。

漢方医師は、「心主神明」つまり心臓(解剖学的な心臓ではなく、漢方における心臓)は神明(精神・意識・思惟活動)を主宰するものであるから、「不眠と心臓は重要な関連がある」と考えています。

例えば、心火(しんか)が強すぎる場合は、心中に怒りや恨み、嫉妬心が燃えているため、興奮して眠れないことになります。同じく、腎臓の機能が弱まっているときも、腎臓の水(臓器のもつ体液)が心火を消せないため、不眠になります。

また、漢方医師は「肝蔵血」とも言います。午前2時ごろよく睡眠がとれれば、肝臓が十分に機能して、人体に必要な血液を作って蔵すことができます。

ところが、高齢者あるいは他の病気で肝臓が弱っている人は、肝臓の血液不足が生じ、その結果として不眠になるのです。高齢者が、午前2時前後に目が覚めて眠れなくなるのは、このためです。

不眠を改善するツボ押し

さて、そのような不眠の場合、何か良い改善法はないでしょうか。
睡眠薬や睡眠改善薬を飲まないで、ご自身でできる方法として、漢方に基づくツボ押しがあります。
漢方医学では、指圧や鍼灸を施すツボを穴(けつ)と呼んでいます。
 

不眠解消に効果のあるツボ(穴)。これを「時計回り」「反時計回り」の順番で指圧してみてください。(健康1+1/大紀元)

図表にある、三陰交、太衝、神門、内関などの各種ツボは、いずれも不眠解消に役立つ部位ですので、ぜひお試しください。この図表に示した各種ツボを「時計回り」および「反時計回り」の順番で指圧すると効果が高まります。

時計回りの順番で三陰交を押すと、肝臓の気を補います。反時計回りの順番で太衝を押すと、同じく肝臓の気を補います。神門、内関は、気持ちを楽にするツボです。

不眠は、病気ではないので治りません。ただし、改善や消滅させることは、必ずできます。
ここで言う消滅とは、「不眠だったことを、いつの間にか忘れている」ということです。

(翻訳編集・鳥飼聡)