現代人の食習慣を考える「飢餓感がまねく高血糖と肥満」

もはや、肥満が「世界最大の慢性疾患」になっている、と言ってもいいのかもしれません。
死亡率が高い慢性疾患といえば、脳血管や心血管の障害、各種がん糖尿病などですが、いずれも「肥満から発した合併症」であると見て大きな間違いはないでしょう。

昔の人は「粗食だったが、肥満ではなかった」

好ましくない意味での「三高」とは「高血糖・高脂質高血圧」を指すそうです。ただし、現代のような肥満社会を前提とすれば、「三高」が出現することは極めて「正常な反応」ということにもなります。

台湾での例を挙げて話を進めますが、おそらく皆様の日本でも、おおよそ同様であったろうと思われます。

半世紀前、つまり約50年前の農業従事者は、まだ夜が明けていない時間から畑に出て仕事をしていました。
機械化もされていないので、丸一日、陽が沈むまで鋤をふるいます。

毎日の労働量がこれほど多くても、ただ三度の食事をとるだけです。

間食やお菓子をつまむアフタヌーンティーもなく、会社帰りのサラリーマンのように、お腹がふくれるほどビールを飲むこともありませんでした。

その時代の人は、今の感覚からすれば「粗食」を食べていました。

具体的にどのような点が違うかというと、その頃の主食は「白く精製されていなかった」ことです。

例えばサツマイモ、サトイモ、玄米ご飯、全粒粉の穀物などですが、これらはいずれも単体のデンプン質ではなく、豊富な栄養素と食物繊維が含まれています。

そのため、人の腸管での栄養吸収は遅く、糖質の上昇指数は非常に低くなります。それによって、食後に「血糖の狂乱」を招くことはなく、もちろん膵臓からのインスリンが過剰に分泌されることもありません。

当時の人々は、日常の飲食で摂る総カロリーも低いものでした。

一般的には、どこかの家の若者が隣村からお嫁さんをもらってきた婚礼の日にだけ、ふるまいの料理を腹いっぱい食べる機会があるだけです。

毎日の活動量も十分すぎることから、当時の人々の代謝は極めて正常であり、肥満体質の人が現れることはめったになかったと言えます。
 

調査した高齢者に「要注意の赤文字なし」

ところが現代人は、食後血糖値の高さを示すGI(グリセミック・インデックス)値の高い食物を大量にとるために、1日の血糖の変化が、まるで遊園地のローラーコースターのように急上昇と急降下を繰り返しているのです。

昔の「農業社会」では、人々の血糖値の変化は比較的穏やかで、急激に上がったり下がったりはしませんでした。

そのため、飢餓感にかられて大量に食いだめするような「慢性飢餓効果」が起こることはなく、毎日ほどよく3食をとれば十分だったのです。

研究期間中、私は数人の健康な高齢者を対象に、インスリン検査をさせてもらいました。年齢は最高で85歳、最も若い人で75歳です。

昔、農業をしていた彼らの外見はすべて細く、痩せていますが、背骨はまっすぐ伸びています。

聞きとり調査では、今の日々の食事もあっさりしたものばかりで、食べる量も「腹七分で良い」と言います。

私を更に驚かせたのは、彼らの健康状態はとても良く、健康診断の全ての項目が正常を現す「青字」ばかりで、要注意や再検査を示す「赤字」が一つもなかったことです。

確認のため、私がご本人に健康状態を聞くと「健康保険証を使ったことなど、ありませんよ」と言います。
病院に行く必要はない、という頼もしい言葉です。もちろん、血中インスリン値も全く正常でした。

若いころから体を動かして畑仕事をした彼らの健康状態は、高齢になった今でも、理想的なまま保たれていたのです。
 

「どうして夜市は、人が一杯なのか?」

台湾の観光名所である各地の「夜市」には、たくさんの飲食店が軒を並べ、多くの人で賑わっています。

それはとても台湾らしい、好ましい風景です。たまの楽しみとして夜市を散策するのはもちろん結構なのですが、やはりご自身の健康を守るという観点から、飲食のありかたを考えてみる必要もあるのではないでしょうか。

私たちの胃袋は、なぜあの揚げ物や甘い飲料に、これほど引きつけられてしまうのでしょうか。

昼食をとって間もない午後3時になると、体のなかで「お飲み物はいかがですか。アフタヌーンティーにしませんか」という生理時計が鳴り始めます。

お茶には砂糖が入り、ついでにクッキーやケーキにも手を伸ばして食べてしまいます。
「よく働いた自分をねぎらうため」が現代人の口実なのですが、実は血糖値が空腹時より低くなっており、飢餓感を錯覚した脳が知らずしてSOSを出しているのです。これが、現代人に食事をさせて血糖値を無理やり上げる「慢性飢餓効果」です。

言葉を替えれば、あなたの体内でインスリン不調が起きているということです。
インスリン不調が起きると、人は一日中、何かを食べたくなってしまいます。

鶏の唐揚げも、お菓子も、タピオカミルクティーも、コーラも、とにかく食べたり飲んだりすることに際限がなくなるのです。

脳はブドウ糖を唯一のエネルギーとしています。飢餓感を覚えた時に甘いコーラをガブ飲みすれば、確かに「脳だけは」喜びを感じます。

しかし、脳以外の体は、どうなるでしょうか。肥満と糖尿病への道を、まっしぐらに、確実に進んでいることになります。

現代社会に生きることから逃げることはできません。だからこそ私たちは、自分の健康を守るため、こうした「糖分中毒」にならないよう、努めて意識しなければならないようです。
(文・蕭慎行/翻訳編集・鳥飼聡)