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古人の知恵「過ちを正せば、運命は変わる」

(みん)の時代のことです。
今の江蘇省江陰市にあたる場所に、張維彦という人がいました。まだ年は若いですが、文章がよく書けるので地元ではよく知られていました。

甲午の年、張維彦は朝廷の官吏登用試験を受けに行きましたが、合格できませんでした。試験の成績表を見た彼は、悔しさのあまり、自分に低い点数をつけた試験官たちを罵りました。「本当に才能のある人物を、試験官はまるで分かっていない!」。

その時、一人の道士が通りかかり、彼の声を耳にしました。道士は、憤慨している張維彦の背中に向かって、こう言いました。

「若いお方。失礼だが、あなたの書く文章は、きっと腐っておりますなあ」

張維彦が振り向くと、白い髭の道士が顔に笑みを浮かべて立っています。張維彦はそれを見て、試験官だけでなく、この道士に対しても腹が立ってきました。

「老士。なぜ私を笑うのです。あなたは私の文章を読んだことがないのに、どうして私の文章が悪いと分かるのですか」

張維彦のその言葉には、激しい怒気がこもっていました。

道士は、柔和な中にも深みのある表情で、こう答えます。
「いやいや、若いお方。お聞きなされ。
良い文章を書くには、まず自分の心を落ち着かせ、穏やかな精神を保つことが肝要だと聞きましたが、そうではありませんかな。
ところが今、あなたは試験官をたいそう罵っていた。あなたは、どうやら怒りやすい人じゃ。もしあなたがそのような性格だとしたら、どうして良い文章を書けるじゃろうか」

張維彦はしばらく静かに考えていましたが、道士の話は理にかなっていると感じました。そこで、改めて教えを乞いたいと、道士に教示を懇願しました。

道士は「あなたが文章をうまく書けることは間違いない。
しかし、もしあなたが失敗する運命にあるなら、いくら名文を書いてもそれがあなたを助けることはできないのじゃよ」と語り、
「根本的な解決策は、自分の態度を変えることだ」と若い張維彦を諭したのです。

張維彦は「どうすれば自分の態度を変えられるでしょうか」と訊ねました。

「それは、あなたが天道に従うことができるかどうかにかかっている。天道に従って多くの善行を積めば、良いことは必ずやって来るじゃろう」

道士の言葉を聞いた張維彦は、落胆して溜め息をつきました。

まだ若い彼には「天道に従う」の真意が、分からなかったからです。

彼が思うことは、ただ自分の人生を成功させて地位や名声をつかみ、豊かな財産を得ることでした。

「そのために、今こうして試験勉強に励んでいるんじゃないか!」と喉まで出かかったのですが、先ほど道士から「怒りやすい人だ」と指摘されたことを思い出し、さすがにその抗弁は抑えました。

「老士。私はただの貧乏な書生です。どこに行けば、十分なお金を得られ、また善行を積むことができるのですか?」

「最も重要なのは、あなた自身の心じゃよ。慈悲心をもち、道徳修養しなさい。心の中にはいつも仁慈の心を持つことが、人間にとって何よりも大切なのじゃ。
だから私たちはもっと謙虚で、いつでも他人を助ける心構えをもたなければならぬ。しかも、そうしたい気持ちは(名声を得るためではなく)純粋で、正直でなければならない。
永遠に天理に従い、人のため誠実に尽くし、慈悲深く、寛容であることじゃ。例えば、お金を求めない人は、ふるまいも謙虚になる。つまり、お金がなくてもできることなのじゃよ。試験官を罵るのではなく、ただ自分を見つめなさい。君の試験官に対する態度は、改めなければならない君の欠点じゃぞ」

道士のこの言葉は、張維彦の心を深く揺さぶりました。貴重な教えを授けてくれた道士に、張維彦は心からの感謝を捧げました。

この日を境に張維彦は、人には優しく、自分に対して厳しくなりました。彼は人格を修養して、高尚な道徳をもつ人になったのです。

この時の彼は、まだ官吏登用試験に合格してはいませんでしたが、人徳ある教育者としての声望は高まっていました。彼は自ら学校を設立し、地域の人々を指導して、さまざまな職業をもつ彼らが間違ったことをしないように教育しました。

「どんなに些細なことでも良いので、善行を積むように」と民衆を指導します。張維彦は人々が互いに親切であることを奨励しましたが、そうした彼の信念には高い称賛が寄せられました。

それから3年後のことです。張維彦は、こんな夢を見ました。
彼は、多くの人の名前が載った名簿が納められた大きな部屋に入った夢を見ました。その名簿には空欄も多かったので、張維彦は隣に立っている人にこの空欄はどういう意味ですかと聞いてみました。

その人の答えは、次のようなものでした。

「これは今年の秋、官吏に採用される人物の一覧ですよ。ここに挙げられた名前の人物が、何も間違いを犯さなければ、そのまま名前は残ります。空欄になっているところは、一度は名前をここに登録されたが、その後間違いを犯したため削除されたのです。
この3年間、あなたは努めて他人に親切にしていたので、あなたの名前が追加されました。あなたはこのまま美徳を積み続け、そのような正念と勤勉さを持ち続けることをお勧めします」

この年の後半、張維彦は夢で告げられた通りに、朝廷の試験に合格しました。

社会的地位が変わったその後も、彼は同じく無私で、人々に多くの善行を施しました。
天は善良な人を守ります。善良な人は、おのずから報われるのです。
どんな職業であっても、どんな環境にいても、良い人にはなれるのです。

人には誠実で、ひたすら善行を積み、しかも報いを求めない。そのような善良で謙虚な心を保つことによって、人間の徳は自然に大徳となります。

これらがあれば、人はるい未来を手にすることができるでしょう。
※ラジオ局「希望の声」の番組より転載
(翻訳編集・鳥飼聡)