あるところに、農業をしている人が、大雨の後のぬかるんだ田舎道を荷馬車で進んでいました。馬たちはひどい泥沼の中で、やっとの思いで荷車を引いていましたが、ついに車輪が*「わだち」にはまり込んで荷馬車が完全に止まってしまいました。
彼は荷馬車から降りて、そのそばに立ち、ただ黙ってそれを見つめていました。*「わだち」から抜け出すために何の努力もしようとせず、彼がしたことといえば、自分の不運を呪い、大声でヘラクレスに助けを求めることだけでした。

すると、ヘラクレスが落ち着いて、真剣に現れ、こう言いました:
「肩で車を押してみろ、それから馬をもっと励ませ。見て泣き言を言っているだけで車が動くとでも思っているのか? 自分で何もしない者を、ヘラクレスは助けないぞ!」
そこで農業をしている人が肩で車を押し、馬たちを励ますと、荷馬車はたやすく動き出し、まもなく彼は満足そうに再び道を進んでいきました。
そして、良い教訓をしっかりと学んだのでした。
このお話から、私たちが学べることは、
『自分でがんばる人には、必ず助けが訪れる』
自分で努力しないで、誰かに頼るだけでは、神様や仏様だって助けてくれないかもしれないよ。
〜せつめい〜
*1 「わだち」とは、車や人が通ったあとにできる道の跡のことです。
この寓話は、1919年発行の『子どものためのイソップ寓話集(The Aesop for Children)』から再録されたものです。また、挿絵は、1887年のリメリック集『Baby’s Own Aesop』に収められた、ウォルター・クレインによる「ヘラクレスと車を引く男」の寓話からのものです。
イソップ(紀元前620年頃–紀元前564年頃)は、ギリシャの物語作家であり、「イソップ寓話」として知られる多くの寓話を残した人物です。彼の物語はその道徳的価値を通じて、長い間、私たちの文化や文明に影響を与えてきました。これらの話は、子どもたちの教育や道徳的な人格形成に貢献しただけでなく、普遍的な魅力を持ち、大人たちがその中にある美徳や警告に耳を傾けたりすることで、自己反省にも繋がっています。
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