残業時間が増えている? ネットがプライベートの時間を侵食 

19世紀の労働者は、長く過酷な労働を強いられ、体を壊し、若くして死ぬことも少なくありませんでした。 労働者は主に一つの会社で一つの仕事をし、運の良い人や能力のある人は、退職するか死ぬまで工場やオフィスで徐々に昇進しました。長期の休暇が取れるのは兵役期間だけでした。

その後、労働者が団結してから、ようやく1週間当たりの労働時間が短縮されました。1870年代のフルタイム労働時間は、週60〜70時間、年間3000時間以上が普通でした。第二次世界大戦後の数十年間は労働運動が活発化し、人々はより豊かになり、技術は進歩し、労働時間はほとんどの先進国で週平均40時間程度になりました。

ドイツの金属労組(IGメタル)が90万人の労働者に対し、週28時間労働の権利を確保し、フランスの週35時間労働制も有名ですが、これらの国々の労働時間の減少傾向とは逆に、米国、英国では2000年代に入ってから徐々に労働時間が増えていきました。

2018年にOECD(経済協力開発機構)が発表した統計によると、先進国の中で最も年間労働時間が長いのは米国で1786時間です。これは英国を250時間近く上回ります。最も年間労働時間が短いのはドイツで1363時間です。社会的・経済的な意味での仕事の概念は、多くのグループ、特に学校を卒業した人や50歳以上の成人の間で流動的になっています。 

2017年、豪州青年基金(FYA)は「The New World Order」を発表しました。25歳以下の豪州人の3人に1人が失業中または不完全失業中で、若者の70%が、まもなく自動化されるか、完全に消滅するような仕事に就いて労働市場に参入していると示しました。そして、過去25年間に豪州で生まれた仕事の3分の1は、派遣社員、パートタイム、自営業者でした。

これらの仕事の中には、成長中の有望な産業もありますが、オンライン小売業者のカスタマーサービスや配送業務など、人工知能や自動化、ロボット工学にまもなく取って代わられるような不安定な仕事も少なくありません。

報告書の主要な結論の一つは、豪州の労働者が、最低賃金、保険、休暇などの権利を失う可能性が高いということです。これらは、労働団体が何十年にもわたって獲得してきた基本的な保障です。このような状況に直面しているのは、豪州の労働者だけではありません。

雇用の不安は若者に限ったことではありません。サンフランシスコ連邦準備銀行は、年齢別に大規模な調査を行い、低技能職であっても高齢者は敬遠されることを示す報告書を発表しました。

研究者たちは、「米国では年齢差別が蔓延している」と結論づけ、この仮説を検証するために、1万3000件の求人に対して4万件の架空の履歴書を提出し、「雇用主はかなりの割合で候補者と接触しているが、若い候補者が最も多く、次いで中年の候補者、高齢者は最も少ない… そして、女性は男性よりも年齢差別を受ける。女性は男性よりも外見の面で厳しく判断される」という結論を導き出しました。

この事は平均寿命が延びたのに年金が充実していないため、定年後も働き続けなければならないという、現代の大きなジレンマも浮き彫りにしています。

安定した職業に就いている人でも、数十年前とはキャリアが大きく異なっています。インターネットやスマートフォンの登場は、労働と仕事の関係を再形成し、再定義しています。

2015年にアドビシステムズが米国のホワイトカラーを対象に行った調査によると、回答者の90%以上が1日6.3時間、メールをチェックしていることがわかりました。90%以上が勤務時間中に私用メールをチェックし、ほぼ同数の人が勤務時間外に会社のメールをチェックしています。そして3割の人が朝ベッドから出る前にメールをチェックし、半数が休暇中にもメールをチェックしています。

多くの労働者にとって、インターネットは夜間や週末、休日を問わず労働者を働かせ続けるものであり、労働時間が著しく長くなっています。英国情報通信庁(Ofcom)によると、2018年の消費者のインターネット利用時間は週平均24時間で、10年前の2倍になり、成人の25%が週40時間インターネットを利用しているとのことです。

英国情報通信庁のレポートでは、回答者の15%がスマートフォンの使用によって常に仕事をしているように感じると答え、54%が友人や家族との対面での会話の妨げになると認め、43%がインターネットで過ごす時間が長すぎると回答しています。

プライベートな時間にこのような形で仕事が入り込むことは、日中の家族の活動を妨げられるだけでなく、労働者が休憩時間に楽しむべき思考、リラックス、充電の時間を減らし、健康に深刻な影響を与える可能性があります。

イギリスの職業心理学者であるクリスティン・グラント氏は、BBCの取材にこう答えています。「この『常に勤務中』の文化は、心が休まらず、体が回復する時間も与えられないので、常にストレスを感じるという悪影響を及ぼす。疲れやストレスを感じれば感じるほど、ミスが増え、心身の健康が損なわれる。ストレスやメンタルヘルスの問題が現代の流行であり、多くの場合、これらの問題が仕事と関連しているのも不思議ではない」

今日、労働生活の質、労働時間の長さ、労働強度は、労働法または労働組織に依存しています。労働法に拘束力がなく、無視されれば、労働組織は影響力を失い、労働者は自らを頼るしかありません。歴史的に見ると、労働組合の活動は労働時間を決定する主な要因であり、1日8時間労働や週休2日制など多くのマイルストーンを設定してきました。英国や米国では、労働組合運動は以前よりその影響力が増しています。

ギグ・エコノミー、つまり、インターネットを通じた単発の仕事でお金を稼ぐといった働き方や、そうした仕事でお金が回っている経済の仕組みは、まだ黎明期にあり、「好きな時間に働こう」と労働者が殺到しています。初期の影響は労働時間の延長で、第一次産業時代のような、工場の門で始業を待つ大量の労働者を連想させます。人類の平均寿命が延びただけでなく、労働者が医療費の上昇に対応するためにより多くの収入を得る必要があることから、ギグ・エコノミーは労働寿命が延びるきっかけとなるかもしれません。

同時に、アジャイルワーキング(迅速かつ効率的に作業を進められるワークスタイル)が主流になりつつあり、高収入の職業の自動化と仲介化によって、従業員は大きな外的ストレスにさらされています。このような分野では、家庭生活や余暇活動を放棄し、仕事だけに集中することが成功のカギとなることが多いのです。

(翻訳・井田千景)