【芸術秘話】ミケランジェロが自ら破壊したもう一つのピエタ(下)

 明かされた真実

ティベリオ・カルカーニによる修復を除けば、「キリスト降架」(通称「フィレンツェのピエタ」)はミケランジェロ個人の作品と言えます。しかし、この彫像は長年、補修作業のみで、修復とは言えませんでした。

2019年、この彫像に対して、大がかりな修復作業が始められ、そして、驚くべき真相が明らかになったのです。

 

「フィレンツェのピエタ」スタッフによる修復作業(Claudio Giovannin/サンタマリアデルフィオーレ大聖堂提供)

Paola RosaさんとEmanuela Peirettiさん率いる作業チームの努力により、「フィレンツェのピエタ」の外層の黄ばみや細かい部分に残された石膏、作品の表面に塗られた蝋などがすべて取り除かれ、白い大理石は再び本来あるべき姿を取り戻しました。

測定と鑑定により、石材はイタリア中部トスカーナ州の北部にある小さな町セラヴェッツァで採掘されたものであることがわかりました。この採掘場はかつてメディチ家が所有していたものです。

当初、ミケランジェロはセラヴェッツァの大理石の質に疑問を感じ、ジョヴァンニ・デ・メディチ(後のレオ10世)の同意を得て、この大理石をサン・ロレンツォ聖堂の外壁に使いました。そして、この大理石は、表面は滑らかでしたが、実はよく見ると、中に微かにヒビが入っているのです。

 

ミケランジェロは果たして彫刻を壊したのか

スタッフはこの彫刻から人為的による破損は見られなかったという結果を出しました。後の人に痕跡を取り消されたという可能性もなくはありませんが、現時点では、「人為的による破損はなかった」となっています。

しかし、「フィレンツェのピエタ」に使われた大理石に対する測定と鑑定では、欠陥があることが分かりました。大理石には黄鉄鉱などの不純物が含まれているため、彫刻器具などで叩いたり、彫ったりすると火花が飛び散ります。

また、彫刻の底の部分からいくつもの細いヒビが発見されており、専門家たちは、これが原因でミケランジェロは「フィレンツェのピエタ」の創作を中断せざるを得なかったのかもしれないという結論を出しました。

いずれにせよ、何百年も前の作品で、途中、場所を転々としていたので、確固たることは何も言えません。しかし、どの芸術作品の背後にもそれぞれの知られざるエピソードが隠されており、事実を探求したり、謎を解き明かしたりすることは、常にわくわくと興奮させられますね。(完)

(翻訳編集 天野秀)