1. 地球と会話する 【人類の活路は地球から教わる】

プロローグ

コロナパンデミック、さらにはウクライナ紛争による世界経済の混乱は、世界の人々の多くを不安に陥らせている。とくに日本は、輸入した原材料を加工し、輸出した収益で自分たちの生活物資をまかなう経済構造になって久しい。いま食料、石油、半導体、木材、その他原材料の品不足と価格高騰により、「日本経済がいつ崩壊してもおかしくない」という専門家の声が出始めている。私たちはいま、問題を直視して、本当の解決策を探さなければいけない時期を迎えている。

以前から目の前に現れている社会問題は、たとえば「少子高齢化」、「医療」、「福祉」、「教育」、「食料」、「貧困」など多岐におよぶ。さらに世界情勢の問題が加わり、何をどこから手をつけて良いわからない状態になっている。日本の政治家や専門家のうろたえぶりも目に付く。こういうときに、焦りは禁物だ。深呼吸をして周りを見渡すと、実は解決策が良く見えてくる。

私たち人間は地球に生まれ、地球で生きている。すべての人間が地球の一部であるならば、解決策は地球に尋ねれば良い。地球は、愛情深く何でも答えてくる。地球は昔も今も、私たち人類を愛してくれている。そのことを、今回はお伝えしようと思う。

自然とのつながりを失った現代人

私たちの多くは「会話」という言葉から、おそらく「人間同士のやり取り」を連想するだろうと思う。少し飛躍すれば、身近なペットに語り掛け、会話しているという人がいるかもしれない。しかし、これからお伝えしようとしているのは、「地球との会話」だ。会話といっても、もちろん言葉を交わすわけではない。では、どんな手段で会話するというのか、具体的に考えてみたい。

そもそも会話の目的は、自分の意思や考えを相手に伝えて理解をしてもらうこと、さらに相手の意思や考えをこちらに伝えてもらって、相互理解を図ることにある。なぜ会話が必要なのか。自分と相手が争うことなく、共通の目的に向かって協力したり、作業を分担して効果を上げたりすることで、双方が利益を得て、繁栄することが可能になるからだ。

ところが、現代社会は言葉が発達しているにもかかわらず、人間同士が争い、だまし合い、傷つけあうことが日常になっている。多くの人間は、同じ国の中でも、外交でも、歩み寄って協力するどころか、いかに自分が(自分たち)が正しいかを主張するために言葉という道具を使うことに熱心だ。その結果が、いまの殺伐とした社会なのだろう。

それにしても、争うことなく互いに繁栄し、幸福になるための言葉であったはずのものが、なぜ本来の目的に使われず、凶器と化してしまうのだろうか。その理由は、ずばり「心身ともに余裕を失っているから」だと筆者は考えている。具体的には、職場の同僚や友人との人間関係、経済的な困窮、身体の不調、そしてマスメディアから流れてくる不安を煽る情報の波。こうした背景から、人々は余裕を失い、攻撃的になりやすくなっているように見える。

では、解決の方法は?

かつて新聞記者として社会の様子を観察し、報道してきたときも、ずっと同じテーマを持っていた。「どうすれば、穏やかで平和な社会が訪れるのか?」。その答えが見え始めたのは、2011年3月11日の東日本大震災を経て、自然農法の研究に没頭し始めたころだった。

肥料も農薬も使わない。種を播くだけで素晴らしい野菜や果物があふれんばかりに育つ。そんな空想の世界に身を投じてしまった当初は、「何をしてもうまくいかない」絶望の毎日だった。なぜ資産も持たない脱サラした個人がこんな酷い目に遭わねばならないのか。

「野菜を作らなければ生活は破綻してしまう」というプレッシャーに負けて、力尽きた。「もうどうにでもなれ」と諦めたとき、なぜか野菜が育ち始めた。ありがたいことに、いまは自分の育てたい野菜は、ほぼ思い通りに育つようになっている。その理由こそが、「地球との会話ができるようになってきたから」だと考えている。

振り返れば単純なことだった。私は当初、「自分の育てたい野菜が育つこと」だけを考えていた。しかし、野菜が育つ「場」は畑であり、地球そのものだ。種を播く。発芽する。虫に食われる。病気になる。枯れる。あるいは大きく育たない。これらは、私が投げかけた言葉に対する、地球からの返答だったのだ。

「発芽してすぐ虫食いで全滅したブロッコリー」著者撮影

どういうことかというと、畑を耕したり、種を播いたりする行動のひとつひとつが、地球に投げかけている「言葉」だとイメージしている。そして、虫食いや病気などの現象が、地球からの「返事」なのだ。

野菜が虫食いに遭うと、私は工夫をしてやり方を変えてみる。すると、虫食いがなくなることもあるし、種類の違う虫の被害が出たりすることもある。地球は、その都度、とても細かく、繊細に返事をしてくれている。そのうち私は、地球の発する言葉が少しずつわかるようになってきた。ポイントは、相手(地球)を注意深く観察し、「何を言おうとしているのか」を丁寧に探っていく意識を持つことだと思う。

地球は、すべての生き物を含んだ巨大な生命体である。そして、私たちが投げかける「言葉」に対して、必ず何らかの「返事」を返してくれている。それは、決して悪意に基づくものではなく、明らかに私たち人間を助けようとしている。私がそう確信している理由は、思うように農作物が育つようになったからだ。

「今ではどんな野菜も育つ完全自然農法」著者撮影

もしいま、良質な食べ物が世界中にあふれるほどできるようになったら、多くの人はどう思うだろうか。心に余裕ができ、身体は健康になり、人間同士が争うこともなくなるのではないだろうか。視点を変えてみると、現代社会のさまざまな問題は、自然と切り離された空間で起きていることばかりだ。おそらく人類の祖先は、地球と会話しながら生き延びてきたはず。ならば、解決策は、まず地球と会話することから始まるのだと思う。
(つづく)
 

自然農法家、ジャーナリスト。1986年慶応大学経済学部卒業。読売新聞記者を経て、1998年フリージャーナリストに。さまざまな社会問題の中心に食と農の歪みがあると考え、2007年農業技術研究所歩屋(あゆみや)を設立、2011年から千葉県にて本格的な自然農法の研究を始める。肥料、農薬をまったく使わない完全自然農法の技術を考案し、2015年日本で初めての農法特許を取得(特許第5770897号)。ハル農法と名付け、実用化と普及に取り組んでいる。 ※寄稿文は執筆者の見解を示すものです。