10億人の中国国民の個人情報が保存されたオンラインデータベースは、1年以上リンクを知っていれば誰でもアクセスできた状態だったという。イメージ図(ISSOUF SANOGO/AFP via Getty Images)

中国、海外へのデータ提供に国家安全評価義務付け 統制強化か

中国政府は1日、「データ越境移転安全評価弁法」(弁法)を施行した。重要データを海外に移転するデータ処理者に対して、国家インターネット情報部門に評価を申請することを義務付けた。

中国では、個人情報及び重要データの取扱いをめぐって、個人情報保護法、サイバーセキュリティ法、データセキュリティ法の3法が制定されている。3法は、弁法に基づく安全評価を経る必要があると規定している。

対象となる事業者は、重要インフラ運営者及び100万人以上の個人情報を取り扱う情報処理者や、前年1月1日から累計で10万人の個人情報または1万人の機微個人情報を国外に提供するデータ処理者などと定められている。

台湾海洋大学の法学者である江雅綺氏は、米ボイス・オブ・アメリカ(VOA)に対して、「個人情報やインターネット上の重要データに対する絶対的な支配権を持つという中国政府の主張を反映した」と指摘した。

米上場の中国企業の会計監査問題めぐる合意と矛盾?

ただ、弁法は米中両政府が8月末、米上場の中国企業の会計監査問題を巡り調印した合意書と矛盾すると同氏は指摘した。

米国では、会計監査について、米証券取引委員会(SEC)の管轄下にある米国公開企業会計監督委員会(PCAOB)の審査を毎年受けることを上場企業に義務付ける「サーベンス・オクスリー法(SOX法)」がある。米証券規制当局は、中国企業が長年、PCAOBの審査を受けていないことを問題視し、中国企業の監査情報へのアクセスを求めるため、この2年以上にわたり、協議を進めてきた。

今回の合意によって、PCAOBの調査官は中国企業のすべての情報を含む完全な会計監査資料を閲覧でき、調査対象である中国企業の監査に関わったすべての人に直接聞き取り調査を行うことが可能だ。

複数のメディアによると、PCAOBの調査官は今月香港に出向き、中国企業の監査書類を検査する予定。中国証券規制当局は主要会計事務所に対し、米上場の中国企業の監査資料を香港に送るよう指示した。

江氏は、「中国国内で作成された監査資料の原稿を香港に送る場合、弁法に基づき、中国当局に安全評価を申請することになる」とした。

同氏は、米PCAOBの調査官らが中国企業の監査に関する「生データ」へアクセスできるかを疑問視した。

「そもそも、中国企業には二重帳簿が存在する。国内で使うものと、香港の国際会計事務所を通じて作成されたものがある。香港版には、実際の情報や生データは使われておらず、粉飾・改ざんの可能性がある」

米国で2020年外国企業説明責任法(HFCAA)が成立して以来、SECは、PCAOBが監査できないとして、上場廃止リスクのある企業リストを複数回発表した。ロイター通信によると、7月29日時点で、アリババ集団を含む米上場の中国企業270社余りがSECの上場廃止警告リストに指定された。

上場廃止を回避するため、中国は2年余りの交渉を経てようやく米政府に譲歩した形で、合意を交わしたが、今回の弁法を適用するかどうか、米中の間に新たな火種がくすぶる。

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