黄色いユリ(大紀元)

【花ごよみ】ユリ

漢字で「百合」と書いてユリとよむこの花は、どうも語源がよく分からない。

ユリは中国語でも「百合」と書く。食用や薬用にもなる「ゆり根」の形が、重なった鱗状であることから百合(ひゃくごう)の字が当てられたらしい。

それを和語で「ゆり」というのは、ちょっと苦しいこじつけに思われるが、この花が微風にそよいで優雅に「ゆれている様子」からの発想であるらしい。

夏目漱石『夢十夜』の第一夜では、復活する生命の象徴としてユリが描かれる。

物語は、「もう死にます」という女性の臨終の場面から始まる。その美しい瓜実顔をのぞきこむ語り手の「自分」には、女の言葉の意味がまだ受け止められない。

「死んだら、埋めてください。大きな真珠貝で穴を掘って。そうして天から落ちて来る星の破片を墓標に置いてください。そうして墓のそばに待っていてください。また逢いに来ますから」

女は「百年待っていてください」といって死んだ。その墓の側で「自分」はずっと待った。

何年、そうしていたか。すると墓石の下から青い茎が「自分」のほうへ伸び、その鼻先でぱっと咲いた。真白なユリの花である。「自分」はその白い花弁に接吻し、「百年はもうきていたんだな」と気づいた。

こうした生命の復活の場面に咲くのは、やはりユリでなければふさわしくない。想像するに、キリスト復活のイースターリリィ(Easter lily)をこんなところに使うとは、さすが漱石。心にくい演出である。

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