インドのアルナーチャル・プラデーシュ州の実効支配線近く、機関砲の横に立つインド軍兵士たち。 2021年10月撮影 (Photo by MONEY SHARMA/AFP via Getty Images)

実効支配線における中国の意図に疑問を呈するインドとの国境衝突

2020年に紛争中のヒマラヤ国境沿いで発生した致命的な対立を受けて、インドと中国は「国境地域の平和と安定を維持し、問題をエスカレートさせる可能性のある行動を回避する」ことで合意した。 

この合意は、両国間の数十年来の協定を再確認するもので、実効支配線(LAC)として知られる事実上の国境に沿って一方的な軍事的優位を求めないことを約束したものだ。 1996年に採択された協定では、実効支配線を尊重するだけでなく、「インドと中国の国境地帯の(実効支配線)沿いで、それぞれの軍事力を最小レベルまで削減または制限する」ことが約束されていた。

2022年12月にインド北東部のアルナーチャル・プラデーシュ州で起きた激しい衝突は、中国が約束を守る姿勢を疑わせる最も直近の事件だ。

12月9日の衝突は、中国軍がタワン地区の「インド領土に侵入」し、「一方的に現状を変更しようとした」後に発生したと、インドのラジナート・シン(Rajnath Singh)国防相が議会で述べたことをAP通信は報じている。 報道によると、続く戦闘で双方の兵士が負傷し、ラダックのガルワン渓谷での戦闘でインド兵20名と未確認数の中国軍兵士が死亡した2020年6月以来の大規模な国境紛争となった。

インドと中国は山岳地帯に正式な国境線を採用していないが、1962年の不安定な休戦協定により、西はラダックから東はアルナーチャル・プラデーシュまで約3,400キロメートルの実効支配線が確立された。 アルナーチャル・プラデーシュ州は、1962年の国境戦争で中国人民解放軍により占領されたが、その後和平交渉でインドに返還された。 しかし、中国政府はその領有権を主張し続けている。

オーストラリア戦略政策研究所の国際サイバー政策センター(ASPI-ICPC)は、2022年の衛星画像分析で、中国人民解放軍が前年に建設された新しい道路を通じてアルナーチャル・プラデーシュ州の実効支配線に大きく勢力を伸ばすことができたと述べている。 国際サイバー政策センターのアナリストによれば、インドはこの地域の戦略的に重要な稜線を支配しており、そこから中国による隣国ブータンの「スローモーション占領」やタワンへの唯一のアクセスを提供する峠を監視することができるという

中国人民解放軍は、実効支配線に迅速に部隊を集結させることを目的とした「新たな軍事・輸送インフラ」でその不利な立場を補おうとしている。 インドメディアの報道によると、2022年12月の侵攻には200~300人の中国人民解放軍が関与していたという。 この事件は中国人民解放軍の無人機とヘリコプターの配備増強と相まって、同軍に緊張緩和の意図がないことを示唆していると「ザ・タイムズ・オブ・インディア」は報じている。

国際サイバー政策センターは、「インドと中国の国境は、インフラが建設され、多数のインドと中国の前哨部隊が戦略、作戦、戦術上の優位性を競っているため、混乱が高まっている」と報告している。 さらに、「こうした状況は、インド軍と中国軍の偶発的または意図的な衝突に起因する軍事衝突がエスカレートするリスクを高める」という。

実効支配線西部の緊張を緩和するための2020年の合意の仲介に貢献したインドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル(Subrahmanyam Jaishankar)外務大臣は、核武装した二国間の直近の衝突について中国が原因だと非難している。 ANI通信によると、ジャイシャンカル外相は2023年1月上旬、「我が国は中国と国境地帯に軍を集結させないという合意を交わしていたが、彼らはその合意を守っていない」と述べた。

ジャイシャンカル外相は、アルナーチャル・プラデーシュ州の実効支配線に沿って人民解放軍が最初に軍隊を集結させたことを明確に示す衛星画像に言及した。

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