日中間の戦力差が拡大するなか、神保謙・慶應大教授はスタンドオフ防衛能力を向上させるべきだと述べた。写真は米軍艦艇から発射されるトマホーク巡航ミサイル (Photo by Christopher Senenk/U.S. Navy/Getty Images)

拡大する日中戦力差 勝算は長距離ミサイルによる「縦深攻撃」=慶應大教授

「(防衛費の対GDP比)2%を確保しても、2030年代前半の日本の防衛力はおそらく中国の軍事費の5分の1程度だろうと考えている」。神保謙・慶應大教授は4月28日に国会参考人として委員会に出席し、日本を取り巻く安全保障環境の厳しさに言及した。日中間の防衛力を均衡させるのではなく、中国軍に作戦を思いとどまらせることができるよう、自衛隊の攻撃能力を向上させるべきだと訴えた。

拡大する戦力差

神保氏によれば、今までの安全保障政策は、インド太平洋地域における米軍の圧倒的な軍事的優位を前提とするものだった。しかし中国が軍事力を高めるにつれ、中国近海への米軍の接近を防ぐ「A2AD(接近阻止・領域拒否)」能力が向上し、米軍の優位性が損なわれ始めている。

日中間の軍事力の差も年々開いている。中国当局が発表した今年度の国防予算は去年と比べて7.2%増の1兆5537億人民元、日本円でおよそ30兆円だ。2005年頃までは日中の防衛費はほぼ同規模だったが、「GDP比2%を確保しても、2030年代前半の日本の防衛力はおそらく中国の軍事費の5分の1程度」になる試算だ。

このような「構造的劣勢」のなか、日本の防衛力強化の目標は中国との防衛力の差を規模的・量的に均衡させることではなく、軍事的手段による現状変更がそのコストに到底見合わないと認識させる能力の構築であると神保氏は主張する。

大陸目標への攻撃も視野

中国に作戦行動がペイしないことをわからせる「積極的な拒否戦略(アクティブ・ディナイアル)」を可能とするのが、先進的なスタンドオフ防衛能力だ。神保氏は「中国本土を含めた陸地等の固定目標に対しても攻撃できる能力を持つことによって、自衛隊の攻撃の縦深性を向上させる」と述べ、より早期かつ遠方で侵攻を阻止する必要があると論じた。

防衛装備庁はスタンドオフ防衛能力として、12式地対艦ミサイルの射程等を向上させているほか、島嶼防衛用の高速滑空弾や巡航ミサイルの開発を進めている。また、米国からトマホーク巡航ミサイルを取得し、それを発射可能な艦船の開発製造を行なっている。

北朝鮮や中国がミサイル攻撃能力を強化し、種類と運用の仕方が多様化するなかで、反撃能力とともに統合ミサイル防空能力を高めることが重要だと指摘した。従来のPAC3とSM3による低高度と中高高度の防衛に加え、極超音速兵器や変則軌道で飛翔するミサイルに対応可能なシステムを2020年代後半に配備することが必要だと訴えた。

課題と提言

神保氏は少子高齢化問題にも言及、自衛隊の人員不足が懸念されるなか、無人技術や人工知能(AI)などを活用することで、防衛能力を高めていくべきだと提言した。防衛装備庁の体制強化や国内の産学協同を進めることで、ロボティクスやナノテクノロジーといった最先端分野で日本の技術的優位性を確保すべきと強調した。

米国との同盟においては、米軍の前方展開を確保するために、先進的なスタンドオフ攻撃を可能にする防衛装備を取得し、戦域における米軍の作戦を支援する体制作りを行うべきだと主張。台湾海峡における高強度の危機に対応するためにも、「装備計画を整えていくことが大変重要である」と述べた。

いっぽう、課題は自衛隊の装備品以外にも存在している。シンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ」の小木洋人主任研究員は昨年12月のコラム(同シンクタンクサイトに掲載)で、「重視分野における能力強化を謳っていることと比して、それらを装備する新たな部隊の規模が小さい」と指摘。新しい装備品を運用する部隊を新設するだけではなく、組織全体の調整が必要だと述べた。

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