自民・公明両党の選挙協力は東京で解消したが、この流れが全国に波及する可能性も否定できない。解散が近いとの見方が出るなか、今後の動きは注目必須だ (Photo by STR/JIJI Press/AFP via Getty Images)

【寄稿】今こそ自公連立解消の絶好機 長尾敬氏

衆議院解散総選挙が近いと言われる中、自民党東京都連と公明党の間で、選挙協力に関して大きな亀裂が生じています。「10増10減」に伴う東京28区での公明党候補者擁立の動きに対し、自民党東京都連はこれを拒んだのです。その結果、公明党は自民党東京都連衆議院候補者に対して推薦を出さないと決めました。

公明党の石井幹事長は会談後「東京における自公の信頼関係は地に落ちた」と強調する一方、「東京に限定した話で連立に影響を及ぼすつもりはない」とも語り、関係の決裂を否定しました。

私はこれまで公明党の推薦を受けることなく衆議院選挙を戦ってきました。しかし、多くの自民党候補者陣営は公明党の推薦がなければ選挙戦に突入できないと心配しているかもしれません。選挙協力という「肝」を握られ、政策ではいつも公明党に譲歩してきた自民党に愛想をつかした保守層は多かったと思います。

自民党は今、大きなチャンスを迎えています。今こそ連立を解消し、自民党が「真の保守政党」として生まれ変わる時なのです。

自公連立政権は1999年10月5日、小渕第二次改造内閣のもとで誕生し今日まで続いています。それまでの「55年体制」の下では、公明党は中道であり、創価学会の壮年部は自民、婦人部青年部は社公民路線をとっていたのです。

ところが、1970年に言論出版妨害事件が発生します。藤原弘達氏の著書「創価学会を斬る」が1969年昭和44年発刊されると、創価学会員が全国の書店を回り取り、取り扱わないよう働きかけました。出版関係者は言論への妨害であるとして抵抗しました。佐藤栄作元総理は事態収束に積極的ではなかった一方、当時の自民党幹事長だった田中角栄氏は積極的に関与し、公明党のために動きました。

田中氏から介入を受けたと著者の藤原氏が告発し、共産党の赤旗などに文章を掲載しました。他の言論人からも出版妨害に遭ったなどの告発が相次ぎました。国会でも議題に上がり、池田大作氏を始めとする関係者の国会証人喚問を要求しました。最後は池田大作氏が謝罪を表明することで終息しました。

この事件をきっかけに、田中角栄氏が公明党と太いパイプを持つようになりました。公明党の竹入委員長が訪中し、周恩来筋とある程度の地ならしを行い、田中氏に恩を返すかのように、日中国交正常化を田中内閣が成し遂げた形につながるのです。

ところが、1993年に細川連立政権が誕生すると55年体制は崩壊、自民党は下野しました。そこで野党だった公明党は連立政権に加わることで、政権与党という権力の強さに初めて触れるのです。自民党は当時、「憲法20条を考える会」を結成し、公明党と創価学会が政教分離の原則に反していると批判を始めました。「反創価学会キャンペーン」まで実施したことから、自民、公明両党の関係が最も悪くなり、しこりを残す時期だったと言えるでしょう。

1994年、自民党は社会党のトップである村山富市氏を総理に据え、禁じ手ともいえるすさまじい執念で自社さ連立政権を成立させることで与党に復帰しました。一方の公明党は、もう一度権力を手にしたいと分党し、新進党に合流。その新進党が政権取りに失敗してしまったのですが、自民党も1998年の参議院選挙で惨敗してしまい、橋本龍太郎内閣が総辞職しました。

自民党は参議院で単独過半数を取れなかったことに危機感を覚え、ねじれ国会を避けるため、自由党との連立協議に入りました。しかし、それでも過半数には足りない。安定多数を確保するためには公明党の議席が必要とみた竹下登元首相は、創価学会の秋谷栄之助会長と密かに会談を行い、自民公明連立政権に対する創価学会の協力を求めました。

しかし、自民党から強くバッシングを受けた公明党代表の神崎武法氏は「自民党の補完勢力にはならない」と表明し連立に加わることを拒みます。支援を受けている側に、どうしても弱みがつきまとうのです。1998年、公明党が主張した地域振興券が補正予算に盛り込まれ、これを機に公明党も政府の重要法案に次々と協力し、1999年10月に正式に連立政権に参加することとなったのです。

これが政策や理念より「数合わせ」を優先した自民党と、政権与党から離れたくない公明党が連立を組んだ顛末です。こうした経緯を目にしてきた有権者は、自公政権のいざこざや政治のパワーゲームに辟易しているはずです。

自民党は目の前の「餌」に食いついてはなりません。公明党との選挙協力解消の影響は東京だけに限られず、全国に波及するという覚悟が必要です。議席が減ろうとも、将来の選挙に向かって大きな軌道修正するための絶好機と捉えるべきです。

「選挙談合」をするのではなく、今こそ各政党が各々の政策を掲げ、候補者を擁立し、有権者が選択肢を数多く手に入れられるような環境を最優先すべきです。その姿勢が信頼を得られる時代に突入しているのです。

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