ずっと寝たふりをしていた私は、鞄を握る手を緩めると同時に、心が熱くなりました・・・(時々雨 / PIXTA)

見知らぬ人【ものがたり】

仕事で出張をする度に、「社会の治安がよくないから泥棒などに気をつけてね」と妻はいつも私に言います。

出張に出たある日の夜、私は地方のある宿泊所(一部屋に大人数が寝泊りする安い宿)に入りました。案内された部屋には、私の前にすでに1人の見知らぬ客がいました。

その客は体格がよく、テレビのサッカー中継を真剣に見ていました。彼と挨拶を交わし背広を脱ぎ、私はドアに近いベッドで横になって本を読み始めました。

しばらくすると、テレビの音が小さくなり、そして周りが明るくなりました。私は振り向くと、テレビを見ていたあの客が部屋の電気スタンドを私のほうに持ってきていました。そして、「よく見えますか?」と彼は河南省の方言混じりで私に尋ねました。

私は「いいですよ。よく見えます」と答えながら、なんだか心が暖かくなりました。しかし、すぐに妻の言葉が頭に浮かんできて、私は思わず会社のお金が入った鞄を手にし、「気を緩めない、気を緩めない」と考え直しました。

すると、私はいつの間にか眠りに入っていました。私は手元の鞄をなくした夢を見ました。それから、冷や汗をかき、私は目覚めました。

明け方ごろ、同室の人は静かに起きました。

しばらくすると、彼はひそかに私のベッドに近づき、そして腰を下ろしました。寝たふりをしていた私は、緊張感の中、びくびくしながら「異常事態」にに備えようとしました。

しかし、再び腰を上げた彼の手にあるのは、一冊の本でした。彼は私が夜読んでいた本が床に落ちているのを見て拾ってくれたのです。彼の親切にまた感激しました。しかし、私は鞄を握る手を緩めませんでした。

その後、彼は自分の荷物をまとめ、部屋を出ようとしました。

部屋を出た後はドアが自動的にロックされるため、彼はドアストッパーを差し込んでから、部屋を静かに出て行きました。しかし、朝の強い風に吹かれて閉め切っていないドアがすぐに開きました。そのため、ドアを閉めるため、仕方なく私は起きようとしました。

すると、彼が戻ってきました。

彼は再び、部屋の外側から開いたドアの手すりを引っ張り、ドアを閉めようとしました。しかし、彼はすぐにそれをやめ、ちょっと躊躇ってから鞄から取り出した一枚の新聞をドアの下に敷きました。そして彼は静かに部屋の外側でドアを閉め切りました。彼が躊躇った原因は、どうやらドアを閉める音にあったようです。

そして、彼は去って行きました。

ずっと寝たふりをしていた私は、鞄を握る手を緩めると同時に、心が熱くなりました・・・

関連記事
同じ画家を師として絵画の学習に励んでいた張さんと丁さんは、共に才能に溢れ、努力家でした。師匠は持っている技芸のありったけを弟子に伝授し、二人はやがて絵画の大家となりました。その後、二人の師匠は思い残すことなくこの世を去りました。
 【大紀元日本5月2日】日本には「鶴の恩返し」という物語がある。「鶴の恩返し」は昔ばなしだが、次に紹介する「猿の恩返し」は、中国で最近現実に起こった不思議な出来事である。 2000年7月末、中国重慶市
今年1月、トルコのゾングルダク地区で、ある女性のとった行動が感動的であると話題になっている。それは冷たい雨の降る寒い日。カフェから出てきた女性が、傘を差して歩き出そうとしたところ、あるものに気を取られ、立ち止まる様子が監視カメラに残されていた。彼女の視線の先には、寒さで震える白黒模様の野良犬がいたという。犬に同情したのか、彼女は自分のマフラーを野良犬にかけて去っていった。
昨年来、世界の注目を浴びるほどの見事さで、中共ウイルス(新型コロナウイルス)の感染拡大を抑止してきた台湾。しかし5月中旬からコロナ感染者が急増したことで、「コロナ優等生」とも言われた台湾社会に再び緊張が走っている。
アメリカ・ノースカロライナ州のある母親は、教会で愛する人を亡くした少女との感動的なひとときを過ごした後、強い神のひらめきを感じたといいます。