ドイツの公安当局はこのほど、中国共産党の対外交流機関と接触する際には、スパイ行為に加担しないよう慎重に振る舞うべきだと警告した。写真は会見に臨む中国の李強首相とドイツのショルツ首相 (Photo by Sean Gallup/Getty Images)

中共対外交流機関との接触には「要注意」 ドイツ公安当局、スパイ行為への加担に警鐘

ドイツの公安当局にあたる連邦憲法擁護庁(BfV)はこのほど、中国共産党の対外交流機関と接触する際には、刑法上のスパイ行為に加担しないよう慎重に振る舞うべきとの警告を発した。与野党を問わず多くの政治家や要人が中国共産党の浸透工作の標的となるなか、ドイツ側も着々と対抗策を打ち出している。

連邦憲法擁護庁が言及した対外交流機関とは、すなわち中共中央対外連絡部(以下、対外連絡部)だ。中国共産党の最高指導機関・中共中央委員会の直属機関であり、「影響力のある重要人物を取り込むことで、中共に利する発言と行動を行わせる。さらに、外国で中共の政治的アジェンダに賛同する人的ネットワークを構築する」ことを目標に掲げている。

スパイ行為への加担に要注意

対外連絡部は設立当初、諸外国の共産党との連携を任務としていた。近年では、接触の対象を民主党や社会党、労働党など左派政党に広め、さらに保守系政党や国際組織とも接触しているという。

中共のスパイ活動は当初、民間レベルや軍事部門に対して行われてきたが、近年、政党への工作に重きを置くようになったと連邦憲法擁護庁は指摘する。対外連絡部は「ドイツ国内の政策決定者を特定して接近し、中共に有利な決定を下すよう促している」ほか、「個人間の交流において、センシティブな情報や重要な課題に対する考え方を聞き出している」と指摘した。

連邦憲法擁護庁は政府官庁に対し「中共の対外連絡部と接触するときは、特に慎重に振る舞うべき」であり、「交流する際は刑法第99条に規定された行為を行わないよう注意すべきだ」と注意を呼びかけた。なお、ドイツ刑法第99条では、外国のスパイ機関に協力した罪を定めている。

さらに、「対外連絡部は実際に中共の諜報機関として機能しているため、中共の諜報機関として分類されるべきだ」と記した。

政治家の対中姿勢を「矯正」

中国共産党対外連絡部がよく使う方法の一つに、現職あるいは前任のドイツ議員を中国に招待し、彼らの中国に対する印象を「矯正」することが挙げられる。特に、中国共産党に対し中立的な立場を持つ議員は重点的な目標であり、対外連絡部は「中国共産党の価値観」を刷り込むことに労力を厭わない。

ドイツの日刊紙「ハンデルスブラット」は、現職や引退した議員が対外連絡部と交流する事例が数多く確認されていると報じた。

与党・社会民主党(SPD)のラース・クリングバイル党首は今年6月に訪中した際、対外連絡部の劉建超部長と会談した。昨年10月の中共第20回党大会では、社会民主党のロルフ・ミュッツェニヒ院内総務が劉建超氏に祝電を送り、新任の中共指導部の「大勝利」を願った。独紙「フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング」がこのニュースを報じたとき、ドイツ政治界には波紋が広がった。

社会民主党の元党首で国防相を務めたルドルフ・シャルピング氏は親中派として知られており、現在は中国投資を行うドイツ企業にコンサルティング業務を提供する会社を経営している。昨年、シャルピング氏が開催した中国経済に関する会議では、対外連絡部の沈貝莉副部長が開会のスピーチを行った。

対抗策着々と

ドイツは今や中国共産党の浸透工作に気付き着々と対抗策を打ち出している。7月末にドイツの有力誌『シュピーゲル』が報じたところによると、「学術スパイ」に対処するため、エアランゲン・ニュルンベルク大学(FAU)は6月から中国の公費留学生の受け入れを中止した。ドイツ教育省もこの判断を支持している。

ドイツ政府は先月、初となる「対中戦略」を発表し、中国市場への依存度を下げると明らかにした。6月に連邦憲法擁護庁が発表した最新の年次安全保障報告書では、中共スパイが産業・科学部門に浸透していることが、ドイツにとって最大の脅威だと指摘した。

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