新疆ウイグル自治区のカシュガル旧市街を訪問した観光客たち (Photo by PEDRO PARDO/AFP via Getty Images)

新疆ウイグルに「旅行しないで」 人権侵害に加担する恐れ=報告書 大阪領事館もツアー実施

中国共産党による少数民族への人権侵害が次々と明らかになるなか、国際旅行会社が新疆ウイグル自治区へのツアー企画を提供していることが問題となっている。米国拠点のウイグル人権団体はこのほど、報告書を発表した。旅行は弾圧を黙認することになるとして、旅行企画を取り消すよう呼びかけた。

報告書はウイグル人権プロジェクト(UHRP、ワシントン拠点)が8月31日に公表した。新疆ツアーを組む米英豪カナダ等にある旅行会社を名指して批判した。報告を受けたのち、旅行企画を停止した会社もあるが、「渡航は地域にとってプラスになる」と継続を示唆する会社もあった。

UHRP代表のオマー・カナト氏は、紛争や災害などの問題を抱える地域は、そもそも観光というエンターテイメントにはふさわしくないと指摘。新疆の場合は、ツアー自体が中国共産党のプロパガンダへの加担になると警告した。

中国当局は、新疆ウイグル自治区の現地住民が外国人観光客と交流することを妨げている。観光客の見た光景は「中国政府のレンズを通して見た」ものであり、「(中共が)見せたいものだけだ」と、UHRPのミルサップ氏はラジオフリー・アジア(RFA)に語った。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は2022年、新疆ウイグル自治区で深刻な人権侵害が行われていると指摘する報告書を発表した。欧米諸国や日本、台湾などの複数の議会では新疆の人権状況に懸念を示し、一部は「ジェノサイド(大量虐殺)」だと批判した。

国連や人権団体によれば、推定180万人のウイグル人やその他のトルコ系少数民族の大量拘束や拷問、女性の強制不妊手術、強制労働、宗教的信念や表現の抑圧、文化遺産の破壊などが行われている。

いっぽう、中国共産党は新疆ウイグル自治区における人権侵害は「デマ」であると宣伝している。

大紀元は新疆ウイグル自治区を含むツアーを企画する、また過去にしていた日本の複数の旅行業者に問い合わせた。某旅行大手は、同地域を組み込むツアーは「現在実施しておらず、今後も行う予定はない」とした。秘境ツアーを取り扱う一社は「担当者不在で応えられない」と述べた。

報告を受け取った米国のワイルド・フロンティア社はボイス・オブ・アメリカ(VOA)に対し、2019年以降、新疆ウイグル自治区へのツアーを催行しておらず、今後の訪問が「可能な限り配慮して」行われるよう、同地域への旅行について調査を実施すると述べた。同社は、新疆における中国の行動を支持するものではないが、旅行は地域社会にプラスの影響を与えることができると信じていると述べた。

旅行で印象塗り替え

外国人向けの旅行は、中国共産党のプロパガンダ作戦としても利用されているようだ。

日本では駐大阪中国領事館が「新疆ツアー」を主催している。第一陣は6月に行われ、9月現在、第二陣が現地を訪問している。人民日報や中国中央テレビの取材班が同行し、ツアーの模様を報道している。領事が美食・美景・美女と謳ったとおり、参加客からの「なんて美しいのか」「西側の報道と違う」といったコメントを宣伝に使っている。

日本ウイグル協会に話を伺った。「中国政府の手先機関である駐日大使館や大阪領事館が、ウイグルへの旅行を呼びかけてていることに注意しています」と理事のサウト・モハメド氏は応じた。

サウト氏は、ツアー申し込みは日本人限定でありウイグル人が申し込みできないこと、参加者を「選別している」疑いがある、といった不自然な点を指摘。「つまり、これは誰でも参加できる一般的な観光ツアーではないのです」と述べた。

中国政府はアラブ諸国やアフリカ諸国のメディア関係者や大使館関係者を対象にウイグル観光ツアーを行なっている。中国官製メディアによれば、7月から8月にかけて、アジア、アフリカ、中東地域の20カ国以上の駐中国大使が同地域のツアーに参加し、「新疆は発展していて人々は幸福そうだ」などとコメントした。5月末にもアラブ諸国16カ国からの代表団をツアーに招いた。

サウト氏は「中国政府が見せたいことろしか行けないのです。このツアーもかつてのツアーと同じく、中国当局のプロパガンダを宣伝するツアーと見ています」と語った。

UHRPは報告書の中で、旅行会社に対し新疆ツアーを中止し、企業責任(CSR)のガバナンス基準を満たすよう求めている。また、世界観光機関(UNWTO)が採択した、観光客への誠実な情報提供や人的搾取の撲滅などを定めた観光倫理枠組条約を遵守するよう求めた。

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