(大紀元)

高智晟著『神とともに戦う』(71)ギネス記録級の荒唐無稽ぶり①

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今の中国社会では、国家権力はまったく監督も制約も受けないため、思いのままにふるまうことがすでに日常的な政治の「風景」にまでなってしまった。自分の利益を基準とする政府部門もあれば、違法かつ野蛮な手段を用いて、法律で保障された公民の権利を奪うことを「最重要任務」とする政府部門もある。こうして中国の現行の法律に基づいて判決が下された、きわめて荒唐無稽な事件は後を絶たない。

これらの事件の一つ一つの背後には、果てしない苦しみをなめ続けている生身の公民が大量に存在している。その一方、裁判所がこれまでずっと、法律によって守られるべき弱者の利益を守ってこなかったという馬鹿げた事実も横たわっている。そのため、国家権力が生み出した数々のでたらめによって被害を受けた人々は、さまざまな法律違反や、天理と常識に背く悪行に直面しながら、ただただ苦しみ、助けの手もなく耐える以外どうしようもなかったのである。

広東省韶関市の馮志東さんとその家族も、横暴で身勝手な国家権力によって数十年も苦しめられてきた。「こんな無茶苦茶なことが数十年来、悪魔のようにまとわりついてきて、逃れられません。我々にはどうしようもないのです」。

2005年5月末、韶関市湞江区の裁判所から召喚状を受け取った馮さんはすぐに裁判所まで出向いた。裁判所から送られてきたのは、民事事件の起訴状であった。原告の韶関市建設局は、馮さんに以下の請求をした。「1、被告が滞納している家賃、1万5875.50元。2、違約金500元」。

訴訟請求からは一見、普通の民事訴訟のようにも見える。しかし、訴状の「事実と理由」の陳述から、まともな人なら誰でもその背後にある荒唐無稽ぶりが見て取れるはずだ。原告は訴状の中で「被告は常々、家屋は先祖からのものであり、私有財産であるという理由で家賃を滞納した」とある。このごく普通な言葉の中に、実はあきれるような荒唐無稽が隠されている。

すなわち原告は、「被告が、問題の家の権利は自分に属するという理由で、家賃の支払いを拒んだ」と訴えているのだ。問題は、原告から見れば、所有権など何の意味もないことである。政府の「公権力」を前にすれば、所有権は、一切の権力を拒める当然の権利ではなくなってしまうのである。

たとえ家の所有権が馮さんの祖先にあり、家が馮さんの所有物であったとしても、今、その家は政府の掌中にあって、すでに数十年も(政府が中国全土を)占有しているからだというのだ(この種の占有がいくら野蛮で違法であってもである)。

つまり、「家賃を数十年間徴収してきたのだから、家の所有権はお前が持っていても、政府から家賃を納めろと言われれば納めなければならない。納めなければ違法であり、契約違反である」という論理である。

原告は、訴状の最後部を、「国家利益を守り、公有住宅に対する正常な家賃徴収と使用を保障するために、原告は裁判所に対し、以上の事実に基づき、法律に照らして本件を審理するよう請求する」と締めくくっている。

長年訴訟に携わってきた弁護士として、日頃から時代の悪弊と向き合ってきた筆者である私でさえ、馮さんから送られた資料を前に、動悸がとまらず、長らく苦しみの中でもがいていた。何度も筆を執ったものの、途中で筆を置かざるを得なかった。これは私にとって、記すのが最も困難だった文章とさえ言える。それは、馮さんがその身に受けた苦痛、及び政府の悪行のひどさだけが理由ではない。

政府部門とその職員が、正常な天理と良識を前にしてもなお露わにする異常なまでの卑劣さと、ずうずうしいまでの無知ぶりに、驚愕を隠せなかったからである。彼らには、この種の最も簡単な良識と常識、最も基本的な廉恥観すらないのだ。これ以上の人を失望させる振る舞い、これ以上の恥知らずがあるだろうか。

 (続く)

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