(hiro / PIXTA)
精神障害の統計に、前例のない危険な変化

デジタルネイティブを中心に蔓延する「心の不調」が米国人の心を静かに蝕む(上)

10歳の少年ビリーは、ボードゲームやチーム活動のとき、負けるとかんしゃくを起こして感情を全く抑えられなかった。両親を悩ませたビリーの精神面の不安定さは、しかし、あることを契機に奇跡的に解消した。

そのきっかけは、小児精神科医、ヴィクトリア・ダンクリー博士が処方した4週間の「画面断ち」だった。

ダンクリー博士は、テレビやゲームの使用がもたらす影響を専門としている。テレビ、ゲーム、携帯に一切触れないようにする「画面断ち」によって、ビリーや他の多くの患者が抱える精神面、行動面の問題を解決した。

「画面断ち」を続けて半年が過ぎたビリーは、スポーツや遊びでインチキをしなくなった。彼は学級委員長に立候補することを決め、スピーチもした。これは、以前なら怖くてできなかったことだ。

テレビ、ゲーム、スマホの使い過ぎは、気づかないうちに静かに人々の人生を蝕む流行病のようだ。世論調査のギャラップ社が2012年に行った調査では、18歳から29歳のアメリカ人の約60%が、自身がインターネットに時間を使い過ぎていることを認めている。2022年の調査では、スマホ利用者の83%が、「起きている間はほとんど」スマホをそばに置いていると答えている。

仕事以外で多くの時間を画面を見て過ごす人は、通常、ショートビデオ、映画、テレビ、ソーシャルメディア、ゲームなどを見たり遊んだりしている。こうした画面を通した娯楽にはすべて、「目新しさがある」「発見がある」「即座に見返りがある」という、似通った感情体験がある。それは多くのストレスを受けると同時に、満足感をもたらす行為である。

問題は、画面が私たちの脳を過剰に刺激し、「闘争・逃走反応」とも呼ばれるストレスのかかった状態がずっと続くことだ。このストレス状態は脳と身体に負担をかけ、ちょっとした環境の変化でも、感情の爆発やうつ、不安に陥りやすくなる。

現れている問題

スマホなどの画面を見る時間とメンタルヘルス不調の関連を最初に発見したのは、サンディエゴ州立大学教授で心理学博士であるジーン・トウェンジ教授による世代別研究だった。

「私は、じわじわと増えていく変化に慣れていました」と、トゥエンジ教授はTEDxで語った。「2010年以降、はるかに急激な変化を目にするようになりました。こんなのは全く見たこともありませんでした」

2010年頃、ソーシャルメディアとインターネットの利用が劇的に増加し、それに続いて大うつ病が増加した(The Epoch Times)

2005年から2012年の間、12歳から17歳の若者がうつ病になる割合が、1%を超えて変化することはほとんどなかった。しかし、2012年から2017年にかけてはその割合が4%近く増加している。

さらに、外出したり本を読んだりする10代が減っている一方で、彼らがソーシャルメディアやインターネットに使う時間は劇的に増えている。

25年間スクールカウンセラーとして働いていた心理療法士のトム・カースティング氏は、2008年、8歳以上の子供たちに注意欠陥・多動性障害(ADHD)の診断が増加しているのを目の当たりにした。

ADHDは、就学後の幼少期に発見される傾向があるが、現在は10代や成人の診断が増えているという。ADHDと診断された10代の中には、幼少期に臨床医が診断し損ねた者もいる可能性はあるが、カースティング氏は、ソーシャルメディアやインターネットを見ることが原因でADHDを発症した者もいるのではないかと疑っている。

ADHDの診断は増加傾向にある(The Epoch Times)

10代の若者の30%がスマートフォンを持つようになった2012年頃から、子供たちの間で反抗的な行動や不安障害が多く見られるようになったという。また現在、10代の若者たちは、反社会的で感情的回復力が低下している傾向にある。これはほとんどの時間を画面の前で過ごすため、対面で人と付き合う経験を十分積めていないことと関係しているのかもしれない。

「原因は、サイバー空間で過ごす時間の長さだけでなく、外での遊びや社会的な学習などの機会を失ったことにもあります」とカースティング氏はエポックタイムズに語った。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行中、青少年が画面を見ている時間は倍増した。 

COVID-19の流行期間中、子供のネット中毒を調査した研究はほとんどなかったが、2021年に成人を対象に行われた大規模な研究によると、インターネット依存症のリスクがあると考えられる人は、一般的な人に比べてうつ病になる可能性が2.3倍、不安を感じる可能性が1.9倍高かった。さらに、明らかな、または重度の依存症の人は、うつ病と不安感を併発する可能性が13倍も高かった。 

COVID-19の流行後には、教師たちは「iPadキッズ」とも呼ばれる「アルファ世代」の子供たちが攻撃的で規律がなく、教室での感情のコントロールがうまくいかない傾向にあると報告している

スマホやゲームなどへの依存症を専門とする精神科医クリフォード・サスマン医師は、ニーズの高まりから、そうした依存症の治療に力を注いでいる。特にCOVID-19の流行後、「この問題を解決したいという需要が爆発的に高まりました」とサスマン医師はエポックタイムズに語っている。

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