コロナウイルスが引き金?膝窩動脈捕捉症候群のリスク増

新型コロナウイルスの拡散とともに、動脈血栓様病変を呈する感染者が増加しています。最新の症例報告によると、新型コロナウイルス感染が急性下肢虚血を悪化させる膝窩動脈捕捉症候群(PAES)の発症が示されています。

2024年2月に発表された「心血管医学の最前線」(Frontiers in Cardiovascular Medicine)誌の症例報告によれば、31歳の男性が新型コロナウイルス感染後に膝窩動脈捕捉症候群を発症しました。

膝窩(しつか)動脈は膝下の脚部の血液供給の主要な源です。膝窩動脈捕捉症候群は、通常、下腿の筋肉が膝の後ろにある膝窩動脈を圧迫することによって引き起こされる、下肢の血流障害をきたす疾患です。膝窩動脈が圧迫されると、下腿の血流が減少し、時間の経過とともに動脈に損傷を与えていきます。

膝窩動脈(sasami018 / PIXTA)

 

この31歳の男性はアマチュアのサッカー選手であり、新型コロナウイルス感染から1週間後にサッカーの試合に参加しました。その後、間欠的な歩行障害が現れ、左下肢の痛みや不快感がありました。歩行障害は2か月間続き、左足の背動脈の脈動が弱まっていました。この間、彼は複数の病院を受診しましたが、明確な診断を受けることはありませんでした。患者はコロナ感染前にはこの様な症状はありませんでした。

患者の入院後、CT血管造影表示、患者の左下肢の膝窩動脈に血栓が現れ、管腔が完全に閉塞されました。さらに、カラー超音波検査では、伸展した位置で、患者の両側の膝窩動脈が圧迫され、管腔が狭窄していました。

医師は、患者に左膕動脈の病変切除および血管バイパス手術を行いました。3か月の抗凝固療法の後、患者はサッカーを再び始め、幸い下肢には何の症状も残りませんでした。

この研究報告は、コロナウイルスが動静脈血栓形成のリスクを増加させ、膝窩動脈捕捉症候群の急性下肢缺血を悪化させる可能性を指摘しています。このような患者は予防的な抗凝固療法を受け、切断などの重篤な合併症を避ける必要があります。

新型コロナウイルスは感染者に動脈血栓症状を引き起こす可能性があり、現に患者は増え続けています。

27件の研究を含む包括的な後ろ向き分析によると、新型コロナウイルスの重症患者の動脈血栓の発症率は4.4%であり、死亡率は約20%で、多くの患者が高齢者であり、合併症が存在します。そのうち、複数の動脈が関係する患者は18%、四肢動脈に血栓が発生する患者が39%、脳動脈が24%、大血管が19%、冠状動脈が9%、上腸系膜動脈が8%でした。

動脈硬化の発生とその進行(barks / PIXTA)

 

2022年に発表された『血栓研究』誌の研究によれば、動脈血栓形成のメカニズムは、通常、血流が阻害された領域内で、動脈硬化性プラークが完全に閉塞または破裂することで起こります。ただし、重症の新型コロナウイルス例では、動脈硬化性プラークやプラークの破裂がなくても、動脈血栓が発生することがあります。さらに、新型コロナウイルスによって引き起こされる内皮細胞の過度の活性化が、大動脈、腎動脈、末梢動脈などの領域の動脈血栓と関連しています。

新型コロナウイルスは血管内皮細胞の安定性を破壊し、血小板の活性化を促進し、それが後に血管性血友病因子(vWF)の凝集をもたらす、血液凝固を助けるタンパク質です。さらに、高い凝固性血液状態や新型コロナウイルスによる他の要因、例えば高度な炎症反応、血液粘度の増加、内皮損傷による大量の血管性血友病因子の出現なども、血栓形成を加速させます。

新型コロナウイルスは動脈血栓だけでなく、軽症患者でも急性四肢虚血、静脈血栓塞栓症、血栓性脳卒中などの血栓症を発症するという研究もあります。
 

コロナウイルス感染が、
膝窩動脈瘤の治療結果に影響を与える可能性

観察的コホート研究によると、2021年3月から2022年3月までの間に、35人の膝窩動脈瘤患者が手術治療を受けました。そのうち13人はコロナウイルスに感染していました。

医師はすべての患者に血栓切除手術を試みましたが、10人の患者が手術後に合併症を発症し、大切断、小切断、神経運動障害、神経感覚障害などがあり、そのうち1人が死亡しました。

研究によると、観察期間を7日間とした場合、血栓切除手術なしの場合の生存率は、コロナウイルス陰性患者が95.5%であり、陽性患者は53.8%でした。また、手術後に合併症のない割合は、コロナウイルス陰性患者が95.5%、陽性患者が30.8%でした。
 

コロナウイルスワクチンによる下肢の虚血

コロナウイルス感染が下肢の虚血を引き起こすだけでなく、mRNAワクチンも下肢の虚血症状を引き起こします。

「Vascular」誌に発表された1例の症例報告によると、43歳の男性がmRNAワクチンの最初の接種の数日後に右脚と足に突然の疼痛を伴い、顔色が青白くなり、体温が低下しており、虚血の客観的な症状がありました。ワクチン接種後20日目に、彼はコロナウイルスに感染しました。彼は以前、跛行(歩行に異常をきたしている状態)の症状や肢体の外傷の歴史はありませんでした。彼の健康状態は非常に良好でした。

CTスキャンとMRI検査の結果、患者は膝窩動脈外膜嚢腫と診断されました。組織病理学的検査では、患者の血管内膜と外膜に、リンパ球と稀な多核巨細胞からなる斑状の壁内炎症浸潤が認められ、巨大細胞動脈炎と診断されました。手術後4日目に、患者は退院しました。

研究者は、ワクチンの免疫反応を増強することが、患者の巨大細胞動脈炎を引き起こすとしています。また、この患者はプロのランナーであり、膝窩部位が反復的に傷ついていることも、症状の誘発因子と考えられます。

Ellen Wan
2007年から大紀元日本版に勤務しており、時事から健康分野まで幅広く携わっている。現在、記者として、新型コロナウイルスやコロナワクチン、コロナ後遺症、栄養学、慢性疾患、生活習慣病などを執筆。