父親と娘の関係を深める方法として、身体活動をともにすることが改めて注目されています。タイラー・リード(Tyler Reed)さんは、20世紀に父性を変え始めたこうした共有の活動が、今日でも父娘の絆を強めるのに有効であると語ります。
「私は、近くのトレイルで定期的に夜の散歩を楽しんでいる3人の娘に恵まれた父親です。私たちは皆で自転車に乗ったり、ウェイト付きバックパックを背負う『ラック(ruck)』という人気のフィットネスを楽しんだりしています。その時間を使って、お互いの一日の出来事を話し合うんです」
「男性は心の中に多くのことを抱えがちで、感情について話すのが難しいこともあります。でも小さな娘たちと一緒にいるときには、日中にどんなことがあって、それが自分にどう影響したかをできるだけ率直に話すようにしています。自然の美しさを味わいながら、彼女たちにとって意味のある小さな時間を積み重ねることを大切にしています」
最近のイギリスの研究では、父親は1950年代の「やや距離のある養育者」から、1980年代には「感情的に関わる存在」へと進化したことが報告されています。著者によれば、その変化を後押しした主な要因のひとつが、散歩や自転車、泳ぎといった、当時広まった共有の身体活動だったといいます。
娘と父親との関係の質は、彼女の心理的な健康に広く影響を与えるとされます。だからこそ、親子の絆をどう深め、どんな落とし穴に気をつけるべきかを理解することには、大きな意味があるのです。
絆を深める方法
イギリスのこの研究では、1950年から1994年に生まれた14人の女性にインタビューを行い、父親との関係について振り返ってもらいました。
1950年代に生まれた参加者たちは、当時の父親像について「尊敬はしていたけれど、どこか距離のある存在だった」と振り返っています。彼らの多くにとって父親は、注意を引こうと努力する対象であり、家庭内では傍観者に近い役割にとどまりつつ、経済的には頼れる『提供者』として記憶されていたのです。
一方、1980年代から1990年代に生まれた女性たちは、父親との関係をより積極的に築くことができる社会の中で育ちました。
この時代には、「関わる父親」という新しい父性のイメージが広まり、また、公衆衛生当局が心臓病などの生活習慣病を防ぐ手段として身体活動を推奨したことで、親子の習慣としても定着していきました。
身体活動は、父親にとって『男性らしさ』を保ちながらも、1対1で子どもと向き合う育児を実現できる手段として受け入れられ、感情的なつながりを育むうえでも理想的な方法とされました。
「今の娘たちは、身体を動かす活動に参加したり、それについて父親と話したりすることを通じて、自然に絆を深めているようです。私はこの現象を非常に興味深く感じています」と、研究の筆頭著者であり、エセックス大学健康・社会ケア学部の講師を務めるジョン・デイ(John Day)氏は、エポックタイムズに寄せたメールで述べています。
「これは、私たちの社会が今もなお変化の過程にあることを物語っています」
英国の研究は詳細なインタビューを含んでいましたが、参加者が比較的少ないため、デイ氏は結論を検証し「ニュアンスを加える」ためにさらなる研究が必要だと述べました。
しかし、この発見はロードアイランド州サウスカウンティ精神科の認定臨床心理学者ホリー・アン・シフ(Holly Ann Schiff)氏に合理的に思えます。彼女はエポックタイムズにメールで、共有身体活動の絆効果の背後にある要因について推測しました。
「散歩のようなものは、父親と娘が中断されない質の高い時間を一緒に過ごす機会を提供します」と彼女は言いました。
「また、よりリラックスした非公式なコミュニケーションを可能にします」
シフ氏は、これらの活動が共有体験とポジティブで長続きする記憶を生み出すと指摘しました。仕事や提供に焦点が当たっていたときには不可能だった方法で、父親がより存在感を示し、応答するプラットフォームを提供します。その結果、父親はより積極的に関与するようになり、娘の感情的ニーズにより敏感になっています。
父娘の絆の影響
「父親との絆が強いと、娘の情緒的な健康に確かな影響を与えます」と、シフ氏は語ります。「愛情深い父親は、娘に安心感や肯定的な評価を与えることができ、それが彼女の自己肯定感や自己価値の形成を支えるのです」
他の関係への影響
シフ氏は、父親と娘の関係はその「質」によって、娘のほかの人間関係にも良くも悪くも影響を与えると指摘しています。
感情面で支えてくれる父親がいることで、娘は安心できる愛着スタイルを身につけやすくなり、それが将来、他者と健全な関係を築く土台となるのです。
「安心できる愛着スタイル」とは、人が人間関係において安心感や信頼を持ち、自分は愛されている、受け入れられていると感じられる状態を指します。一方で、父親との絆が不十分だったり希薄だったりすると、娘は「自分は大切にされていない」「愛されていない」と感じやすくなり、自尊心の低下を招く恐れがあります。
こうした弱い絆は、「不安定な愛着スタイル」を形成しやすく、将来的に他者との健全な関係を築くうえで障害となることもあります。
「父親と強い絆を持つ娘は、感情的に安定し、精神的な不調を抱えるリスクが低くなります」とシフ氏は述べています。「また、彼女が世界で自分をどう見るか、男性に受け入れられていると感じるかに影響を与えることができます」
「ポジティブな父親像を持たずに育った娘は、恋愛関係において相手を信頼することが難しくなり、場合によっては不健全な関係や虐待を受け入れてしまう可能性もあります」
こうした影響を裏付ける研究が、心理学誌『Psychology Research and Behavior Management』に掲載されました。
研究では、ヨルダン在住の18歳以上の既婚カップルを対象に、結婚満足度と父親との関係に関するアンケートを実施しました。父親との関係に安心感があった女性は、結婚生活でも同じように安定した関係や満足感を得やすい傾向があることが示されました。
精神健康への影響
「父親と強い絆を持つ娘は、感情的な安定とサポートがあるため、精神的な健康問題を発症する可能性が低いです」とシフ氏は言いました。「同様に、弱い絆は娘を感情的に不安定にし、精神的な健康問題のリスクを高める可能性があります」
精神的な不調の一例として、摂食障害が挙げられます。『European Psychiatry』に掲載された研究では、摂食障害のある女性と健康な女性を対象に、それぞれの父親との絆の強さを比較しました。研究者たちは、両グループの食行動、うつ症状、そして身体イメージ(自分の体の見え方・感じ方)に関するデータも収集しました。その結果、父親との関係が良くない女性ほど、摂食障害やうつの症状が強く現れる傾向があることが明らかになりました。
父娘の絆を深める
共有の身体活動に加えて、絆を育む他の方法もあります。シカゴの認定臨床社会福祉士であり、Lynn Zakeri LCSW Clinical Servicesのオーナーであるリン・ザケリ(Lynn Zakeri)氏は、エポックタイムズにメールで彼女のアドバイスを提供しました。
「娘として、また娘と父親を見るセラピストとして、父親がその関係を築くためにできるいくつかの提案があります」と彼女は言いました。
それには以下が含まれます:
- 一緒に質の高い時間を過ごす:父親にとっての「質の高い時間」が、必ずしも娘にとって同じように大切とは限りません。たとえ娘が野球の試合自体にはあまり興味がなくても、その前後や観戦中に交わす意味のある会話が、体験を価値あるものに変えることもあります。
- 良い聞き手になる:問題を解決しようとするのではなく、理解と思いやりをもって耳を傾けてみてください。
- 愛情を示す:娘が成長するにつれて愛情表現は変わるかもしれませんが、依然として重要です。父親は温かさとサポートを維持しながら、娘の境界を尊重することが奨励されます。
- 興味を奨励する:娘の情熱を支え、彼女の成果を祝うことはつながりを育てます。
- 感情的なつながりを持つ:日々のちょっとした声かけや様子うかがい、励ましの言葉、そして小さな成功を一緒に喜ぶこと。こうした積み重ねが、父娘の関係をより強く、安定したものにしてくれます。
避けるべき落とし穴
「強い絆を築く方法はたくさんありますが、特定の行動が意図せず距離を生む可能性があります」と、ニュージャージー州Sobaの認定臨床心理学者カロリナ・エステヴェズ(Carolina Estevez)氏はエポックタイムズにメールで語りました。彼女は父親に以下のことを避けるよう助言しています:
- 過保護になりすぎない:娘が自分の力で物事を判断し、自立していくプロセスを見守りながら、必要なときには適切な指導とサポートを行う。そのバランスが、娘の自信を育てる鍵となります。
- ただ一緒にいるだけでは足りません:父親が物理的にそばにいることは大切ですが、それだけでは娘との関係は深まりません。意味のある対話を重ねることこそが、信頼とつながりを育てる鍵になります。
- 過度な批判や非現実的な期待は逆効果に:建設的なフィードバックは娘の成長に役立ちますが、完璧さばかりを求めすぎると、かえって自尊心を傷つけてしまうことがあります。大切なのは、努力や過程を認める姿勢です。
- 時間をなんとなく過ごしてしまわないように:忙しさの中でも、娘との時間を意識的に優先し、大切な場面に寄り添うこと。それが、父娘の絆を長く強く保つための大切な鍵となります。
シフ氏によると、1980年代に始まった父親の役割の変化は、感情的関与と養育の重要性を認識した社会のポジティブな転換です。
「もう単に提供することだけではありません」と彼女は言いました。「関与は健康な関係につながり、娘の生涯にわたる心理的幸福の基盤となります」
(翻訳編集 日比野 真吾)
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