人は生活の中でストレスを避けることはできません。自分自身が直面するストレスに加え、他人がストレスで苦しんでいる様子を見ると、私たちもそのストレスを感じ取ってしまうように思えます。まるでストレスが感染するかのようです。これについて、実際にストレスは伝染し、他人の健康に直接影響を与えると述べる専門家もいます。
アメリカの心理療法士で作家のフィル・レイン氏は、心理学専門サイト「Psychology Today」で次のように述べています。「ストレスは避けられないものです。人は生活の中で、さまざまなストレス要因に必ず直面します。これは人間として自然なことであり、複雑かつ多面的な人生の本質なのです」
人々はしばしば、ストレスはその要因を経験している本人だけに影響すると考えがちです。しかし、最近の研究では、ある人のストレスやその反応が、愛する人々、特に配偶者やパートナーに直接影響を与えることが示されています。
つまり、ストレスは感情・行動・思考に影響を及ぼすため、一人のストレス反応が他人にまで波及するのです。特に、2人が同居している場合にその傾向は顕著です。
心理学の観点から見ると、アメリカのパデュー大学が2021年に発表した研究では、人はさまざまなストレス環境において、自分自身とパートナー双方の健康に影響を及ぼすことが示されました。
研究者たちはこれを「関係性バイオビヘイビオーラル・ストレス・モデル」と定義しました。このモデルにおいて「関係性」とは、ストレスを感じている人(行為者)と、その影響を受ける人(パートナー)とのつながりを指します。
このような関係では、行為者が怒り、引きこもり、無感覚といったネガティブな反応を示すと、パートナーにも直接的かつ明確な悪影響が生じます。
例えば、ジョンが仕事のストレスを抱え、その結果うつ状態になり、孤立し、怒りっぽくなったとします。このようなジョンの状態は、妻のジョーンの感情や行動にも影響を及ぼすことになります。

健康への影響
研究者たちは、ジョン(行為者)とジョーン(パートナー)の両方がジョンのストレスによる悪影響を受ける場合、深刻な身体的健康問題が起こる可能性があると指摘しています。
研究によれば、1日の始まりには、パートナーのストレスの有無にかかわらず、行為者とパートナーのコルチゾール(人体が自然に分泌する「ストレスホルモン」)のレベルは似ているといいます。しかし、衝突が発生するとその数値に差が現れます。
そのため、ジョンのストレスが1日の中で増すと、ジョンとジョーンのコルチゾールレベルは共に上昇し、さらなるストレスや身体的症状を引き起こします。たとえば、心拍数の上昇、不安感の悪化、パニック反応などです。
また、2018年に発表された研究では、行為者とパートナーの双方におけるストレスが炎症反応を悪化させることが示されました。炎症は心血管系や免疫系に影響を与え、長期的に心身の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。したがって、恋愛関係や結婚関係における「二者間のストレス」は、深刻な健康リスクを引き起こす可能性があるのです。
レイン氏は次のように指摘します。「仕事、家庭、経済的問題など、生活の中には常にストレス要因が存在しており、その影響から完全に逃れることはできません」
そして、「関係性バイオビヘイビオーラル・ストレス・モデル」を理解することにより、行為者とパートナーの双方が健康を維持しやすくなると述べています。
私たちが、自分だけでなく他人もストレスによって健康に影響を受けていることを理解することは、ストレスに対して健康的に対処する重要性を認識する助けになります。
レイン氏はこう述べています。「自分自身と家族全体の健康をできる限り守りたいと思うならば、自分がどのようなストレスを感じているか、それにどう対処しているか、そしてどのように健康的にストレスを管理・軽減するかを常に意識する責任があるのです」
そして最後に、「私がストレスを健康的かつ適切に管理できれば、自分の心身の健康にとって有益であるだけでなく、家族や愛する人々の健康にも良い影響を与えることができるのです」
とまとめています。
また、アメリカ・ミズーリ州のワシントン大学心理・脳科学講師で心理学者のティム・ボノ氏は以前、「人間は社会的な生き物であり、他人から影響を受けやすい存在です。他人のストレスに影響されることは『セカンドハンド・ストレス(二次的ストレス)』と呼ばれています」と語っています。
さらに、オレゴン大学のエリザベス・シャートクリフ教授は、「セラピストでも親友でも構いません。『セカンドハンド・ストレス』に直面したときには、信頼できる人に助けを求めるべきです」とアドバイスしています。
(翻訳編集 解問)
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