「認知の衰えは避けられない」という考えは捨てましょう。脳はどの年齢でも活力を保つことができ、心を鍛えるのに遅すぎるということはありません。
科学的研究によって、私たちは集中力を高め、記憶力の低下を防ぎ、気分を改善し、注意力や問題を解決する力を強化できることが分かっています。驚くべきことに、それは複雑なことではありません。いくつかの基本的なセルフケアの戦略を日常生活に取り入れるだけで、脳を最適な状態に保つのに大きな効果があります。
神経学者のデイヴィッド・パールマター博士(Dr. David Perlmutter)と精神科医のドリュー・ラムジー博士(Dr. Drew Ramsey)は、脳に関するベストセラー書の著者であり、人々が身体を鍛えるように脳の健康も育てられることを広めています。筋力や持久力をトレーニングで高めるように、誰でもよりしなやかで強い脳を育てることができるのです。その方法をご紹介します。
1. 自然な食品を食べる
パールマター博士は、食事こそがこの課題において最も重要な要素だと考えています。脳は体重のわずか約5%しか占めていませんが、体全体のエネルギーの25%を消費しています。
栄養精神医学の先駆者であるラムジー博士は、私たちが食べるものと感情との関連性について、科学が明らかにしていると補足しています。たとえば、魚介類、野菜、ナッツ、豆類などの自然食品を多く摂ることで、心の回復力(レジリエンス)を高める効果が期待できます。一方で、エナジードリンクや焼き菓子といった糖分を多く含む食品は、感情や集中力を乱し、不安感を引き起こす可能性があります。
加工食品を避ける
食事が脳の健康に与える影響は、アルツハイマー病において特に顕著に表れます。この病気は「第3型糖尿病」とも呼ばれており、1型や2型糖尿病といくつかの特徴を共有しています。アルツハイマー病は、脳におけるインスリン抵抗性、つまり血糖値が高すぎることで細胞が血液中のブドウ糖(脳の主要なエネルギー源)を取り込めなくなる状態によって引き起こされることがあります。
「つまり、超加工食品や高度に加工された穀物、そして血糖値を急上昇させるような食べ物を避ける必要があるということです」とパールマター博士は述べています。「こうした食品は、脳にとって明確で現実的なリスクとなります」
高度に加工された食品とは、工場で製造され、人工添加物を含むものを指します。たとえば、砂糖入りのシリアル、ポテトチップスや他の包装スナック、炭酸飲料、冷凍食品、キャンディー、市販の焼き菓子、ファストフードなどが該当します。また、高度に加工された穀物製品には、精製小麦粉を使ったパン、インスタントオートミール、小麦粉のトルティーヤ、ライスケーキ、多くの種類のパスタなどが含まれ、これらは食物繊維、ビタミン、ミネラルが不足しがちです。
持続型血糖モニター(CGM)を使用することで、血糖値を急激に上げる食品を特定することも可能です。
正しい脂肪を選ぶ
パールマター博士は、脳のエネルギー源として「長く燃焼し続ける」脂肪、つまり健康的な脂肪を取り入れることを勧めています。無脂肪の食事は理想的ではありません。というのも、「脳の約70%は脂肪でできており、脂肪は自然に生まれるものではないからです」と彼は言います。
ただし、どんな脂肪でも良いわけではありません。野生の脂肪分が豊富な魚や魚油には、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)といった必須のオメガ3脂肪酸が豊富に含まれており、これらは脳の構造にとって非常に重要だとパールマター博士は強調します。このような魚には、サーモン、アンチョビ、イワシ、サバなどがあります。一方で、精製された種子油や植物油――たとえば、トウモロコシ油、大豆油、キャノーラ油など――は避けるべきとされています。これらの油は賞味期限を延ばすために高度に加工されており、炎症を促す成分を多く含んでいるからです。
色とりどりの果物と野菜を食べる
「お皿を見て、自然な色が3色以上ないなら、キッチンに戻って何か色を足しにましょう」とラムジー博士は言います。「もし食べ物が薬だとするなら、これは薬箱を多様化する方法です」

鮮やかな色の果物や野菜にはポリフェノールが豊富に含まれており、腸内の善玉菌の働きを高める効果があります。多様な色を取り入れた食事は、腸内細菌の種類の多さと関連しており、それが認知機能の改善や、認知症やパーキンソン病などの疾患リスクの低下につながるのです。
また、果物と野菜は食物繊維も豊富に含んでいます。パールマター博士によれば、腸内細菌はこれらの繊維を材料にして、体内の炎症を抑える短鎖脂肪酸を生成し、ビタミンB群や神経伝達物質を合成します。目標としては、1日およそ60gの食物繊維を摂るのが理想で、これは一般的なアメリカ人の平均摂取量の約3倍にあたります。
2. 身体を動かす
週に少なくとも2時間半の運動を目標に設定しましょう。パールマター博士によれば、「いつ運動するか」にこだわる必要はありません。新しい研究では、週末にまとめて運動しても、1週間に分けて行っても、効果に差はないことが分かっています。
運動には、インスリン感受性を高めるだけでなく、学習や記憶にとって極めて重要な「脳由来神経栄養因子(BDNF)」という物質の産生を促す働きがあります。パールマター博士はこれを「脳のための“魔法の成長剤”のようなもの」と表現しています。BDNFの産生量が増えると、「新しい脳細胞の成長プロセスが実際に始まり、脳細胞同士の新たなつながりも形成される」のだと言います。そして、「それを実現する最も効果的な方法が運動です」と強調しています。
博士自身は、毎日のストレッチ、バランス運動、30分のクロストレーナー(エリプティカル)トレーニング、ウェイトトレーニングを日課にしており、隔日でピックルボールも楽しんでいます。
ラムジー博士は、運動を他の脳に良い習慣と組み合わせることを勧めています。たとえば、屋外での活動や地域コミュニティへの参加などです。これにより脳に対する効果が二重に得られるだけでなく、新しい習慣を無理なく取り入れることもできるようになります。

3. 質の高い睡眠を最優先に
回復力のある良質な睡眠を取ることは、脳の健康にとって極めて重要です。脳は夜の間も活発に働き、学習、記憶、解毒などに関わる機能を実行しています。問題は、多くの人が睡眠の重要性と、自分自身の実際の睡眠の質を過小評価していることです。
パールマター博士とラムジー博士は共に、Ouraリングのようなウェアラブル型の睡眠トラッカーの使用を勧めています。これらのデバイスは一日中データを収集し、理想とされる一晩に4〜6回の睡眠サイクルを確保できているかを判定してくれます。なお、各睡眠サイクルに含まれる異なる種類の睡眠は、それぞれ脳の健康に異なる影響を与えます。
トラッカーを使うかどうかに関わらず、博士たちは以下のような睡眠の質を損なう要因を避けるよう呼びかけています:
- 就寝前の激しい運動
- 寝る2〜3時間前の食事
- 寝室の明るすぎる照明
- 暑すぎる寝室環境
- 騒音や、眠りが浅いパートナーとの同床
かつて不眠に悩まされていたラムジー博士は、毎週数回サウナに入ることで睡眠の質が改善したと話します。また、Ouraリングで睡眠の乱れを警告されたことをきっかけに寝室を見直し、隣人が設置した新しいライトが枕元を照らしていたことに気づき、遮光カーテンを購入した経験もあるそうです。
光は私たちの体内時計(概日リズム)を調整する大きな手がかりであり、このリズムは睡眠と覚醒のサイクルをコントロールしています。ラムジー博士は、概日リズムをリセットするには、朝に屋外で光を浴び、夜は室内の明かりを暗くするのが最適な方法だと述べています。

4. 好奇心を刺激する
毎日数時間、頭をしっかり使う活動に取り組みましょう。パールマター博士は現在70歳ですが、いまでも積極的にブログを執筆し、ポッドキャストを配信し、さらに本の執筆にも取り組んでいます。
彼はこう語ります。「私にとって、これはとても刺激的なことなんです。仕事を終えた後も、その内容が一日中頭の中に残っていて、心を引きつけられたテーマについて考え続けています。自分を夢中にさせてくれる分野を見つけられたことは本当に幸運でした」
好奇心の欠如は、うつ病と関係があるとされています。ラムジー博士は、日記を書くことやグループセラピーへの参加が、健全な好奇心を育てるのに役立つと補足しています。
5. 音楽を楽しむ
楽器を演奏したり、歌ったり、ただ音楽を聴いたりすることは、気分を良くするだけでなく、脳にさまざまな良い影響を与えます。音楽を聴くだけでも、睡眠の質や記憶力、精神の敏捷性が改善され、さらには血圧を下げたり、痛みや不安を和らげたりする効果があるのです。
パールマター博士は毎日少なくとも30分ギターを弾いています。最近は自分に挑戦するため、1970年代の楽曲を練習中です。
「ジョニ・ミッチェルのような音楽家が作り、歌った曲を、自分の楽器や声を通じて再現できるとき、その曲に命が吹き込まれ、魂の奥深くに触れるような感覚があります」と彼は語ります。

6. 前向きなことを考える
脳にポジティブな思考を注ぎ込みましょう。私たちの思考は、脳の構造や働き、化学反応にまで影響を与えます。これは「神経可塑性」と呼ばれる仕組みによるもので、繰り返される思考パターンによって神経回路が強化されたり弱まったりするのです。
前向きな思考をすることで、ドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質が分泌されます。これらは気分を明るくするだけでなく、神経細胞の成長も促します。パールマター博士は、「楽観的でいることはストレスを軽減し、脳の老化に対する回復力を高める」と話しています。つまり、意識的に前向きな思考を持つことで、記憶力の向上、問題解決力の強化、感情の回復力が期待できるのです。
一方で、長期間にわたるストレスやネガティブな思考は、コルチゾールというホルモンの分泌を促します。これは、記憶や学習をつかさどる脳の「海馬」の萎縮を引き起こす原因となり、不安や恐怖を感じる「扁桃体(へんとうたい)」を過剰に活性化させます。その結果、感情障害や認知の衰えのリスクが高まるのです。
7. 地域とのつながりを築く
地域社会や人とのつながりの力を最大限に活用しましょう。これは感情の安定に役立つだけでなく、自分の目標に責任を持ち続ける助けにもなります。ラムジー博士はこう述べています。「人間は常にさまざまなストレスにさらされてきましたが、今はさらに新たな課題――スクリーン、有害物質、新しい社会構造、そして人間関係の希薄化を招く多くの要因――に直面しています」そのため、「新しい人間関係を築くことを、個人の責任として捉えるべきだ」と彼は強調します。
博士にとっては、家庭とセルフケアを優先することが最も重要です。ただ、気が散って本来の目標から外れてしまうことも多いため、彼は家族との食事の頻度を記録することで、家庭を大切にするという目標を具体的に意識するようにしています。
また、ラムジー博士は、患者の興味と地域とのつながりを結びつけるようにしています。たとえば、ロッククライミングが好きな人には、クライミングジムに参加することを勧めるなど、同じ興味を持つ仲間とつながることで、目標達成を後押しします。

8. 自分を高めることに取り組む
これまで紹介してきたすべての習慣は、「変わりたい」という意志があってこそ実現できます。より健康な脳を手に入れるためには、継続的な自己責任の意識が欠かせません。ラムジー博士は、まず自分自身の生活を見つめ直し、自己認識を高める努力をすることが重要だと述べています。彼自身は日記を書くことを習慣にしており、どの部分が自分の目標と食い違っているのかを明確にしています。
「自己認識は、精神的に健康になるための強力な信条です」と彼は言います。「それは、自分がどう変化していくか、どこに問題があるのか、どうすれば自分の人生をコントロールできるのかを見極め、責任を他人のせいにするのではなく、自分で引き受けるようにすることです。私はこれが癒しへの第一歩だと思います」
※本記事はもともと『American Essence(アメリカン・エッセンス)』誌に掲載されたものです。
(翻訳編集 華山律)
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