年齢を重ねるにつれて、代謝の低下や高血圧・高血糖・高脂血症、白髪の増加、睡眠の質の低下などに悩む人が増え、体重増加を防ぐのはさらに難しくなります。こうした悩みに対して、中医学では大麦、小麦、燕麦といった日常的に手に入りやすい「麦類」の力が注目されています。これらの麦は、いわゆる三高のコントロール、胃腸のケアや快眠の促進、黒髪の維持や脳の健康にも役立つとされ、歴代の中国医たちから食養生の良薬として賞賛されてきました。
大麦茶:胃を整え消化を助け、脂肪代謝を促進
50歳を過ぎると、多くの人が代謝の低下を感じ、少し多く食べたり脂っこいものを食べただけで、胃の張りや消化不良を起こしやすくなり、腹部の脂肪もなかなか落ちにくくなります。
そんな中、大麦茶は胃腸を整え代謝を助ける優れた味方です。中医の古典『景岳全書』には、大麦について「食べ物をよく消化し、胃腸を整え、冷えを除き、米や小麦、果物などの食べ過ぎを解消し、心腹の張りを取り除く」と記されています。これは、大麦が多くの食べ物の消化を助け、胃腸の冷えや張りを緩和する働きがあることを意味しています。
大麦にはGABAとトリプトファンが含まれています。GABAは神経伝達物質で、体内の余分な塩分を排出し、コレステロールや中性脂肪を下げる働きがあり、動脈硬化の予防にも効果的です。又、GABAは不安やストレスを緩和し、睡眠の質を改善します。トリプトファンはメラトニンを合成する材料となるため、入眠を助け、眠りを深くする働きがあります。したがって、大麦茶は睡眠に悩む人に特に適しています。
さらに、大麦茶はカフェインを含まず、胃酸の分泌を刺激しないため、胃食道逆流のある人にも安心です。家族に高脂血症やむくみの症状がある高齢者がいる場合、大麦茶は日常の健康維持飲料として適しています。
ただし、注意が必要なのは、「大麦茶」と「麦芽茶」は別物であるという点です。麦芽茶は炒って作られるため、プロラクチン(乳汁分泌ホルモン)を抑える作用があり、授乳期の女性は飲まない方が良いでしょう。
また、李時珍の『本草綱目』によると、麦芽、大麦の芽、キビの芽は、米、小麦、果物などの食べ過ぎを解消する作用がありますが、そうでない人が長期的に摂取すると、体力を損なう恐れがあります。長期にわたって摂る場合は、白朮(ビャクジュツ)と併用すれば害はないとされています。
大麦:黒髪を保ち、腎を養う
白髪が増えるのは、多くの中年層が直面する共通の悩みです。中医古典『証類本草』には、大麦には黒髪効果があると記されており、長期的に摂取することで白髪の発生を遅らせるとされています。古代の人々は、髪を黒くする効果を得るために、大麦と針砂や石などの薬草と一緒に使って髪を染めていた記録もあります。
そのため、髪の健康を保ち白髪を予防したい人は、日常的に大麦茶を飲むのがおすすめです。天然素材で副作用がなく、化学的な染髪よりもずっと安全で健康的です。
えん麦:血糖を安定させ、コレステロールを下げる
中高年になると、高血圧、高脂血症、高血糖といった問題に悩まされやすくなります。えん麦(オーツ麦)には豊富なβ-グルカンが含まれており、コレステロールの低下や血糖の上昇抑制に役立つことが知られています。
2024年に発表された統合分析によると製品の摂取は、脂質異常症のある人の血中総コレステロールと悪玉コレステロールを効果的に低下させることが確認されましたが、中性脂肪や善玉コレステロールについてははほとんど効果がないことが確認されています。
えん麦を主食の代替品として取り入れることをおすすめします。例えば、朝食にはえん麦を豆乳や牛乳と一緒に食べ、昼食や夕食にはえん麦ご飯やえん麦の麺類を取り入れると良いでしょう。このような食べ方をすることで、満腹感が得られやすくなり、コレステロールの低下や血糖値の安定にも役立ちます。
オートミールの選び方
一般的なオートミール製品は、「インスタントタイプ」と「伝統的な調理タイプ」の2種類に分かれます。前者は手軽に食べられる一方で、加工度が高く、血糖値が上がりやすいという特徴があります。特に、砂糖やマルトデキストリンが添加されている製品や、オーツミルクなどは糖尿病患者には不向きです。一方、伝統的なオートミールは加熱調理が必要ですが、栄養素が多く残されており、血糖管理が必要な人にとってはより適した選択肢です。
ただし、オートミールを避けたほうがよい人もいます。慢性腎不全や透析中の方は、オートミールにはリンが多く含まれており、腎臓への負担を増す可能性があります。
また、脂質降下薬を服用中の方は、食物繊維が豊富なオートミールは薬の吸収を妨げることがあるため、薬との服用間隔は2~4時間空けるのが望ましいとされています。
浮小麦:自律神経の乱れを整える助けに
小麦は中医学において「心の穀物」とされ、心の気を補い、精神を落ち着かせる効能があると考えられています。偉大な医学者・孫思邈が著した『金匱要略』には、「甘麦大棗湯」という処方が記されており、これは浮小麦、炙甘草、大棗の3つの薬材から成り、情緒不安、イライラ、不眠など、現代で言う自律神経失調や軽度のうつ状態に用いられます。
「浮小麦」とは、ある程度保存された後に水に浮くようになった小麦のことで、自然の変化により性質が穏やかで熱をこもらせにくく、心を養い精神を安定させる作用があるとされています。
甘麦大棗湯は古代から広く使われており、現代の臨床でもその効果が確認されています。筆者が診た90代の高齢者の方にこの湯剤を処方したところ、飲用後に情緒が安定し、睡眠も改善され、家族も大変喜ばれていました。
さらに、2024年に発表された研究では、甘麦大棗湯が加齢による骨格筋萎縮を軽減し、ミトコンドリア機能の改善にもつながることがマウス実験で示されています。
甘麦大棗湯の作り方:炙甘草20g、浮小麦40g、ナツメ15個を用意し、水2000ccを加えて弱火で30分煮れば完成です。心が不安定でイライラしやすく、不眠がちの方に特に適しています。
なお、ここで紹介した中草薬は、健康食品店やアジア系食材店で購入できます。ただし、体質には個人差があるため、具体的な治療方法については、専門の医師にご相談ください。
(翻訳編集 華山律)
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