私の集中力は昔ほどではなくなったと感じるのは、多くの人の意見を代弁しているかもしれません。
大学時代、私は週に1冊以上のペースで本を貪るように読みました。クロスカントリーでは友人と並んで 約16km のランニングをこなし、教会や食事の席、友人との集まりでも、スマートフォンを手にしないでいられるのが普通でした。
特にスマートフォンと低い認知パフォーマンスの関連を示す研究は数多くあります。2023年に『ネイチャー』誌に掲載された報告では、スマートフォンが近くにあるだけで人はより注意散漫になることが明らかにされました。
現代生活がより気が散るものになっていることを科学的研究で知らされることは、おそらく多くの人にとって必要ありません。常識と自分の経験が何よりも雄弁に物語っています。
最近、私は失われた集中力を取り戻すための個人的な挑戦を始めました。脳には神経可塑性(脳が変化・適応する能力)があるため、筋肉と同じように鍛えることができ、集中力を再び養うことが可能です。
集中力を強化する4つの方法
もしも以前より生活がバラバラで、ストレスが多く、余裕がないと感じるなら、私が実践している集中力強化プロトコルに加わってみてください。これは、現代の注意散漫な空気に抗うための短い実践リストです。
1. スマートフォンに手を伸ばす衝動を抑える
欲求が湧いた瞬間にそれに応えてしまうたび、脳にはその行動パターンが刻み込まれます。これはまるで、ベルが鳴ったらおやつがもらえるように犬を訓練するようなものです。この連鎖を断ち切る簡単な方法は、スマートフォンに手を伸ばしたいという衝動を満たす前に、立ち止まり少し間を置くこと。あるいはそもそも携帯電話を取らないと決めることです。
たとえば、あなたがパソコンを使うとき、衝動的にお気に入りのニュースサイトを開いてしまうタイプだとします。そのとき、サイトをクリックしたくなったら自分を意識的に止め、10分だけ遅らせる、もしくは完全にやめてみてください。脳に「全ての誘惑に即座に応える必要はない」と教え込みましょう。
2. 漸進的過負荷(少しずつ負荷を増やす)
ウエイトトレーニングをする人なら「漸進的過負荷(progressive overload)」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これは、抵抗(負荷)を少しずつ増やし、それに身体を適応させて筋肉を強くしていく方法です。適切な休養を前提に、負荷が重くなるほど筋肉は成長します。
この概念を集中力トレーニングにも応用してみましょう。本を読むなど、集中力を必要とする日常の活動を選びます。まずは10分間、休憩や中断なしで読むことから始め、少しずつ目標時間を延ばしていきます。最終的には1時間など、より大きな目標に到達できます。
ただし、1週間続けて成功してからでないと目標時間を延ばさないようにします。ゆっくりと確実に進めることで、刺激の少ない状態に慣れながら、集中力という「筋肉」を強化することができます。
3. あえて困難なことをする
私たちの世界はこれまでになく便利になりましたが、その便利さには代償があります。ワンクリックで買い物ができ、GPSで道に迷わず、デバイスに話しかければほぼすべての答えが得られる――そうなると、摩擦や不便さへの耐性はどんどん弱まります。
たとえば、歯磨き粉が切れたときにAmazonで注文するだけなのに、それすら面倒に感じることがあります。以前はわざわざ車に乗ってお店まで行っていたのに。
期待値がどんどん高まり、忍耐力が低下する流れに抗う最良の方法は、意図的に「困難なこと」を行うことです。冷たいシャワーを浴びる、ハードな運動をする、難しい本を読む、GPSを使わずに運転する、長い計算を手で解いたりしてみましょう。こうした「困難なこと」に取り組むことで人格が形成され、たとえ集中力を要する場合でも物事をやり遂げる精神力が鍛えられます。
4. 「栄養価」の高いメディアに触れる
ジャンクフードや甘いお菓子を日常的に食べていては減量が難しいのと同じように、メディアの消費内容が「ツインキー(アメリカのスナックケーキ)」や「ドリトス(スナック菓子)」のようなものであれば、集中力を高めるのはほぼ不可能です。多くの場合、短い動画やソーシャルメディアのフィード、見出しの流し読みを減らす必要があります。
私が役立つと感じた変化のひとつは、ポッドキャストを聴く代わりにオーディオブックを選んだことです。ポッドキャスト自体に悪いところはありませんが、私はあまりにも多くの番組を聴き、話題を次々と変えてしまっていました。数週間かけて長いオーディオブックを聴くというのはユニークで挑戦的な代替策であり、何年もしていなかった深いテーマの探求を楽しめるようになりました。
5. 好きなことを断つ「断食」
食事を控える断食(ファスティング)は紀元前5世紀まで遡る古代の実践で、ある種のストレスが私たちにとって有益であること、そして快楽を断つことで再び得たときの喜びが増すことは古くから知られています。
私は、テレビ、ソーシャルメディア、好きな食べ物、外食、アルコール、オンラインショッピング、音楽など、日常のあらゆる「楽しみ」から時々離れることをお勧めます。
こうした無邪気な楽しみをあえて控えることで、それらがなくても幸福でいられると自分に言い聞かせます。それはあくまでケーキの上のアイシングに過ぎません。「良いこと」に対してノーと言える力を持つことは、自分を勇気づけ、注意散漫を避ける脳の部分を強化します。こうして即座にドーパミンを得る依存度を減らし、日常にある普通の喜びへの感受性を高めることができるのです。
(翻訳編集 井田千景)
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