歩く速度が遅くなる、手足の力が弱くなる、意図しない体重減少、頻繁な転倒 。これらはサルコペニア(加齢性筋肉減少症)の兆候かもしれません。65歳を過ぎると転倒はより危険になり、筋肉の減少は転倒や骨折、更に死亡に至る主な原因となります。
なぜふくらはぎの筋肉が重要なのか
ふくらはぎの筋肉は単に歩行の力になるだけでなく、歩行の安定性、姿勢、バランスに不可欠です。高齢者では、ふくらはぎの筋肉量の減少は虚弱や転倒リスクの高さと密接に関連しています。ふくらはぎは測定が比較的簡単なため、全体的な筋肉の健康状態やサルコペニアリスクを示す実用的で目に見える指標として利用できます。
現在、ふくらはぎ周りの測定は臨床等で広く用いられ、サルコペニアの特定に役立っています。研究によれば、ふくらはぎが細いほど筋肉量が少なく、高齢者では歩行能力の低下や死亡率の高さと相関しています。
ふくらはぎを鍛えることで、バランスや歩行速度が改善されるだけでなく、サルコペニアの進行や関連リスクを抑える可能性があります。
自宅でできる簡単なサルコペニアのセルフチェック
以下の2つの方法で、自分自身でサルコペニアを確認できます。
1. ふくらはぎ囲みテスト
方法:両手で「C」の形を作り、ふくらはぎの最も太い部分を囲みます。
評価:
- 指が触れる、または重なる、あるいはふくらはぎが指で作った輪より太い場合は、筋肉量が十分ある可能性が高いです。
- 指とふくらはぎの間に隙間があり、指が全くふくらはぎに届かない場合は、ふくらはぎの筋肉量が減少している可能性があり、サルコペニアの初期サインかもしれません。この場合は筋肉を強化する運動に取り組む必要があります。

2. 椅子立ち上がりテスト
方法:椅子に座り、腕を胸の前で組んで肘掛けを使わずに、立ち上がりと着席を5回連続で行います。
評価:12秒以内で完了できれば筋肉量が十分と考えられます。12秒以上かかる場合は筋力低下が疑われ、筋力トレーニングや医師による筋力評価を受けることが推奨されます。
ふくらはぎを鍛えるシンプルで効果的な運動
朗報です。今日からたった1つの動作でサルコペニアに立ち向かえます。
片足つま先立ち
- ステップ1:椅子や壁につかまりながらまっすぐ立ちます。
- ステップ2:左足を床から浮かせ、右足のかかとを上げてつま先立ちになり、5秒間キープ。その後足を入れ替えます。
- ステップ3:片足につき10回を1セットとして、1日3セット行います。週2〜3回を目安にしましょう。
効果
- 足首と脚の筋力を強化
- バランスを改善し、転倒を予防
- 下肢の血流を促進
- 自宅で簡単にできる。器具は不要
安全のための注意点
- 椅子や壁など安定した支えを必ず使用して転倒を防ぎましょう。
- めまいやバランスの不安がある場合は無理せず、座って脚を上げる運動に切り替えましょう。
- 足をしっかり支え、滑りにくい靴を履きましょう。
中医学では、サルコペニアは「痿証(いしょう)」と呼ばれ、脾と胃の機能不足が原因と考えられています。これらの臓器は消化を司り、食べ物を筋肉を養う栄養素へ転換させる役割を持つとされています。
消化を助けて筋肉を強化する
中医学では脾は「後天のもと」とされ、解剖学的な脾臓に限らず消化器全体を指します。脾は食べ物を栄養に変え、それを四肢の筋肉に供給する働きを担っています。脾や胃が弱ると、栄養豊富な食事でもうまく吸収できません。
脾胃を支えるためには、食べ過ぎを避け、消化しやすい食べ物を中心にバランスの取れた食事を心がけることが重要です。また、生ものや冷たい食べ物、辛いもの、脂っこいものは控えましょう。規則正しい生活、十分な睡眠、前向きな気持ちも脾胃の健康を促し、栄養吸収や筋肉維持を助けます。
これらは現代的に言えば「腸に優しい生活習慣」ともいえ、筋肉を育てる栄養戦略を補うものです。
筋肉維持の要:たんぱく質
高齢者の中には、歯の健康状態が悪いために肉や卵の摂取量が減り、たんぱく質不足から筋肉量が減る人がいます。65歳以上では、毎食ごとに手のひらサイズの高品質なたんぱく質(肉、魚、豆類、卵など)を摂取することが勧められます。
噛む力が弱い高齢者には、豆腐のすりつぶし、茶碗蒸し、蒸したタラなど柔らかいたんぱく質が適しています。鶏肉はミンチや細切りにして調理すると食べやすくなります。調理時にパイナップルの天然酵素を使えば肉を柔らかくでき、消化しやすくなります。重度の歯の問題がある場合は、プロテインパウダーも実用的な選択肢です。
食事の多様性が筋肉をつくる理由
バランスが取れた多様な食事は筋肉を守り、身体機能を維持・向上させる鍵です。
『The Journal of Nutrition, Health and Aging(栄養・健康・老化ジャーナル)』に発表された研究では、日本の高齢者1,184人を対象に食習慣を調査しました。調査は10種類の主要な食品群(肉、魚介類、卵、牛乳、大豆製品、緑黄色野菜、いも類、果物、海藻、油脂)について行われ、1日に摂取した食品群の数で「食事多様性スコア」が算出されました。最大スコアは10で、すべての食品群を含む食事を意味します。
結果として、他の要因を調整した後でも、食事多様性スコアが高い高齢者は、除脂肪量(脂肪を除いた体重)が多く、握力が強く、歩行速度も速いことが示されました。つまり食事の多様性が高いほど筋肉量が多くなり、身体機能や移動能力が向上するのです。
食事の多様性が高いほど、筋肉の健康と回復力が高まります。食べ物は「薬」と考えましょう。加齢による衰えを防ぎ、自立や活力を守るためのものでもあるのです。
慢性疾患との隠れたつながり
サルコペニアは単なる移動能力の問題だけではなく、高齢者に多いさまざまな慢性疾患とも関連しています。
- 糖尿病:『ランセット糖尿病・内分泌学』に発表された研究では、筋肉量の減少はブドウ糖の運搬を妨げ、インスリン抵抗性を高め、さらにサルコペニアを悪化させることが示されました。糖尿病の女性は、糖尿病でない女性に比べてサルコペニアを発症するリスクがほぼ2倍です。
- 高血圧:サルコペニアのある高齢者は、そうでない人に比べて高血圧のリスクが29%高いとされています。
- 肥満:過剰な体重と筋肉量不足が合併した状態は「サルコペニア肥満」と呼ばれます。内臓脂肪は炎症を引き起こし筋肉を破壊し、虚弱を悪化させて身体の自立を損ないます。
これらの関連性から、サルコペニアは孤立した問題ではなく、高齢期の健康管理や慢性疾患の予防において重要な要素であることが分かります。
この記事で表明された見解は著者の意見であり、必ずしもエポックタイムズの見解を反映するものではありません。
(翻訳編集 井田千景)
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