冬至を過ぎると、体の中では少しずつ「陽の力(陽気)」が芽生え始めますが、まだ十分に体の表面まで行き渡っていません。
そのため、冷たい風や寒さにさらされると、体の外から入り込む冷え 、いわゆる中医学でいう「風寒」に影響されやすくなります。これを「外感」と呼び、かぜやインフルエンザなどの原因になると考えられています。
この時期の養生と予防の要は、陽気を養って体の根本を固め、脾と腎に温かさを注ぎ込み、寒さに耐える力と病に負けない力を高めることにあります。
羊は「陽」の象徴――最も陽気を補う肉
「羊」という字は「陽」と同じ音を持ち、温かさや善さを象徴する文字です。これは、羊肉が人の陽気を高める食材であることを示しています。『本草綱目』にも羊肉について「中を温め虚を補い、腎気を益し、食欲を開き、体力を強める」と記されています。
羊肉は性質が温でやや熱性があり、脾と腎に入り、体の根本であるこの二つの臓の陽気を高め、体を内側から温めてくれます。補いながらも重たくなりにくく、消化しやすい、数少ない優れた肉類です。
牛肉はやや消化に負担がかかりやすく、豚肉はとり過ぎると体に重たさを残しがちですが、羊肉は体を温めながらも乾きすぎず、体のうるおいを保ったまま陽の力を補ってくれます。とくに体の深部を温める「腎」の働きを助けるため、冬に冷えやすい方や、疲れが抜けにくい方に適した食材です。
さらに、体の外側を守る「衛気」を助け、風寒によるかぜを防ぐ働きもあります。脾と腎が温められ、気血の生成が充実すれば、肺の働きも整い、風寒は体表から入り込みにくくなるのです。
だからこそ、冬至の後に羊肉を食べるのは、体の内なる「熱源」を養い、支えるための、理にかなった養生法なのです。
冬至に羊肉を食べる風習は、中国では古くからの習わし
中国の伝統には、冬至に「補冬(ほとう)」といって体を養う習慣があります。
清代の庶民の暮らしを記した古書『清嘉録』には、「冬至になると、どの家でも羊肉を食べて寒さに備える」と記されています。

その目的は、単に栄養をたくさん取ることではありません。「一陽初生」すなわち陽の気が芽生え始めるこの時期に、温める性質の食材を用いて、生まれたばかりの陽気を支え、寒さに損なわれないように守り育て、体の陰陽の巡りを円滑にすることにあります。
日本における羊肉料理――温めても熱がこもりすぎない
日本では、羊肉は牛肉や豚肉ほど一般的ではありませんが、寒冷地である北海道などでは「ジンギスカン」という独自の羊肉料理が発展してきました。

この料理には、冬至以降の養生にかなった特徴があります。
羊肉は薄切りにして少量だけ使い、満腹になるまで食べるのではなく、体を温めることを目的にしています。さらに、玉ねぎ、もやし、白菜、しいたけなどの野菜をたっぷり合わせ、体に熱がこもりすぎないように工夫されており、陽気を助けながらも熱がこもりすぎない、理にかなった食べ方となっています。
陽気を補う養生レシピ:和風ラム鍋

適した時期:冬至から小寒まで
向いている人:冷たい風に弱い、陽の力が不足しやすく冷えやすい、体力が落ちやすい方
材料(1~2人分)
- ラム薄切り肉……80~100g
- 白菜……2枚(ざく切り)
- 玉ねぎ……1/4個
- 長ねぎ……適量(刻む)
- しいたけ……2枚
- 豆腐……少量
- しょうゆ……小さじ1
- 酒……小さじ1
- しょうが……2~3枚
- だし……適量
作り方
1.鍋にだしを入れ、しょうがとしいたけを加えて弱火で香りを引き出す。
2.白菜と玉ねぎを入れてさっと煮る。
3.最後にラム肉を入れ、色が変わったらすぐに火を止める。
4.しょうゆと酒で軽く味を調え、ねぎを散らす。
養生のポイント
- ラム肉は100g以内に抑え、体を温めながらも熱がこもらない量にする。
- 野菜を先に、肉は後から食べることで、胃腸への負担を減らし、消化を助けます。
- 熱いうちに食べ、ねぎの働きで体表まで陽気を巡らせ、寒さやかぜから体を守る。
結び
冬至を過ぎると、天地は寒くとも体の中では陽気が芽生え始めます。この時期に怖いのは寒さそのものではなく、陽の力が弱く、寒さに立ち向かえないことです。
羊肉はたくさん食べるのではなく、少量をやさしく取り入れるのがコツ。脾と腎が温まれば、体を守る力も自然と高まり、冷たい風に負けにくくなります。
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