チベットの光
チベットの光
「見るな!見て何が面白いんだ!シャアツェのバイツォンヤンの婆さんが悪魔みたいな餓鬼を生みやがって。餓えても死なない『悪魔のミラ』とは、あいつのこと...
師父は手紙の中で、いかに障碍を転じて益とするか、いかに好ましくない状況を転じて好ましいものとするか、そして功徳を増す口訣を書いていた。師父は手紙の...
プダは、ミラレパの美しい歌声を聴いているうちに、だんだんと心が落ち着いてきた。彼女は、歌で歌われている故事をつぶさに聴いた後で言った。 「もしお兄...
ある日、ミラレパの郷里で仏像を前に一年に一度の塑仏像大集会が催されるというので、妹のプダも郷里に戻って食を求めた。狩人の一群が、そこである歌を歌い...
「私は人だ!幽霊などではない!」、ミラレパが答えた。 「あれ、君はウェンシーではないのか」ミラレパを知っている人が、その声を聴いて問うた。 「ごも...
ミラレパの洞窟の中での修行も過ぎていった。このとき、彼の衣服はすでにボロボロになり、叔母が彼の地所を売りとばしてよこした毛皮も修繕不可能になったの...
洞窟での修行はまた一年が過ぎた。 ある日、一群の狩人たちが狩りに出たが、終日狩りをしても、何も得られなかった。彼らは面白くなく、腹も減っていて、何...
叔母がくれた食料をミラレパは毎日少しづつ節約して食べていたが、それでも食べきってしまう日がある。四年が経過して、しまいには何の食物もなくなった。も...
去りゆく叔母の後姿を見るミラレパの心の中には、一種強烈な悲哀が広がっていた。彼の心には、さまざまなものが交錯していた。ジェサイが彼にした話、母親と...
叔母が帰った後もミラレパは洞窟の中で修行を続けた。しかし、しばらくすると修煉の壁に突き当たった。自らどのように努力しようとも、それを突破することが...
ジェサイは、ミラレパの話を聴いてじっと何か考えている様子だった。彼女にはどうしても理解できなかった。彼女の観念の中の大法師とは高みにある存在で、人...
ミラレパは食料をもって、疲労困憊して傷ついた身体を引きずりながら洞窟へ帰った。彼は歩きながら思った。 郷里の近くに住んではみたものの、地元住民の怒...
果たして、それはミラレパの叔母であった。彼女は口で罵りながら、棍棒を手にして猛烈に殴りかかってきた。ミラレパは身をひるがえしてこれを避けようとする...
しばらくして、ミラレパは意識の混迷から醒めてきた。彼は師父から教えられた超度の口訣を思い出すと、すぐに打座して入定し、口訣を黙呪して七昼夜を過ごした。
ミラレパは実家の近くまでやってくると、村の傍を流れる渓流の上流にある、小高い山の斜面に立った。そこから下を望むと、彼の実家が見える。山の斜面では、...
その晩、ミラレパは師父の部屋にやってきて、師母もまた一緒であった。師母は、あくる日の早朝に彼を送らねばならないと思うと、涙を隠せなかった。 「ダメ...
師父はまた続けた。「言ってみれば、ノノバ尊者が受けた種々の苦難や私がおまえに与えたような磨難は、度が過ぎた厳格な方法で、後代の人にはもう無用であり...
ミラレパがとぼとぼと歩いていると、突如として見慣れたような、しかし完全には記憶にはないような所に辿りついた。彼が目を凝らして見ると、それはシャアツ...
ミラレパは、師父の面前に膝まずくと涙を流し、合掌して自らの中で悟った法理を師父に話して聞かせた。 「師父、師母!あなたがたの比類なき慈悲と加持に感...
師父はウェンシーを剃髪した後、あくる日には彼に灌頂を施し、法を講じ、彼の頭の上に手を置いて言った。「君が来た時から、君が根器のいい弟子であることは...
師父がそのように言い始めたので、皆は息を凝らして耳をそばだてた。 「そもそも私が雷を落としたのには原因があるのだ。私のこの怪力の弟子は、苦痛に本当...
ラマの傍に立っているウェンシーを見ると、誰もが涙を禁じ得なかった。その中には、過去にウェンシーを慰める人も、ラマのところに行って法を伝えてもらえる...
アバ・ラマは、師父が傍らにあった棍棒を手に取り、憤怒の表情を浮かべているのを見て、恐ろしくて地面に跪き、全身を震わせながら、戦々恐々として言った。...
まもなくアバ・ラマがウェンシーに告げた。「怪力君、君も準備しなさい。私たちも出立することとしよう」 アバ・ラマは家中にあった財産を洗いざらい、黄金...
ウェンシーは山の洞穴の中で怠りなく修行に精進していたが、一向にこの法門特有の感覚を得られなかった。彼は洞穴のなかでぽつんと一人でいるようで、だんだ...
ウェンシーは戻ると、アバ・ラマを見かけたので、死骸がつまった包みをどっかと地面に置いた。 「先生、見てください!私は正法を求めに来たのに、却って罪...
しばらくしないうちにウェンシーはノノバ尊者の身荘厳を携えて、荘厳な儀式に臨み、神聖な音楽が流れる中、皆が待ち受ける大殿へと進んだ。ウェンシーはアバ...
マルバ・ラマは毎月の十日に法会を開いていた。毎回の法会には多くの弟子たち、ラマ、村民たちが一同に集まり、佛を礼拝して経典を読誦した。この月の十日、...
ウェンシーが師父の家を出ると、その道すがらは恍惚として、師母にいとまを言ってこなかったことが思い出された。師母は実の母親のようによくしてくれたので...
辛い気持ちで、ほとんど這うようにして仏堂を出たウェンシーの絶望感は、筆舌に尽くしがたいものだった。部屋の中で大声で泣きわめき、絶えず心の中で思った...