チベットの光 (43) 法を求める心

 まもなくアバ・ラマがウェンシーに告げた。「怪力君、君も準備しなさい。私たちも出立することとしよう」

 アバ・ラマは家中にあった財産を洗いざらい、黄金、玉石、日用品等、そしてあらゆる仏像、経文、法器の一切をもっていくことにした。マルバ師父が賜ったもの以外、一切合財をもっていくことにしたのである。ただ、一匹の老いて痩せた羊は性情がよくなく、足手まといになるので置いていくことにした。

 「怪力君!」、アバ・ラマが緞子をウェンシーに与えて言った。「君はいい弟子だ。君はこの緞子を師父に供養したらいい」

 「ダメマ師母には、これを供養したらいいですよ」。アバ・ラマの奥さんが、ウェンシーにチベット・バターを渡した。

 マルバ師父の祝賀会では、ラツァゥ谷のすべての大衆と弟子たちが参加し、皆が一同に会して、マルバ師父の長男の新宅落成と成年を祝った。

 皆が祝賀の宴を終えると、アバ・ラマはもってきた一切合財をマルバ師父に供養し、恭しく言った。「先生、このたび私は、痩せて老いた羊以外、一切合財をもってきて先生に供養しました。ですから、どうか道の奥義にあたる灌頂と口訣をお授けください」

 「ああ、あの奥義にあたる灌頂と口訣か。あれに沿って修行すれば、即身成仏となれる。口訣のなかでも最も最たるものだ」。マルバ師父は笑って続け、「もし本当に法を求めるなら、その年老いた羊が何の役に立たなくても、それをもってこないという話なら、全部を供養したとはいえず、その口訣は伝えられないな。その他の口訣なら既に全てあなたに伝えてあげたよ」

 「あの老いた雌羊をもってくれば、法を伝えてもらえるのでしょうか?」とアバ・ラマが聞いた。

 「その羊を手ずからもってこい!そうすれば法を伝えよう」、マルバ師父が答えた。

 あくる日、アバ・ラマは一人戻ると、その羊をみずから背負ってきて師父に供養した。

 マルバ師父は、非常に喜んで言った。「よし、よし!このような心があれば、成就しない事などありえようか。君のような弟子は、行為の上から、法を求める心というものを表現しておる。これが重要なことなのだが、君は財産を洗いざらい供養した。これは法に対する至誠と敬重を表している。でなければ、そんな年老いた羊など、私に何の用があろうか」。師父は言い終えると、アバ・ラマに口訣と灌頂を施した。

 数日が過ぎ、皆が一堂に会して法会をしているとき、マルバ師父は憤怒の表情で上座に座っていた。彼は棍棒を傍らに置き、ドングリ眼をまん丸くして見開き、アバ・ラマを睨み付けると、怒声を放った。

 「アトンチャンバ!おまえ何の許可があって、そのような自分勝手なことができたのだ」。彼は言いながら、傍らの棍棒に手を伸ばした。「言ってみろ!どうしてウェンシーのような大悪人に灌頂をしたのか」

(続く)

 

(翻訳編集・武蔵)