チベットの光 (45) 最高の弟子

  ラマの傍に立っているウェンシーを見ると、誰もが涙を禁じ得なかった。その中には、過去にウェンシーを慰める人も、ラマのところに行って法を伝えてもらえる可能性があるかどうか聞く人もいた。ウェンシーは衝撃のあまり、生きる希望を失って泣きだし、苦痛と絶望が彼の心を粉砕したかのようであった。

 彼は元より最終的に法を得られたから嬉しかったのに、結果同じことになってしまって、根本から希望を失ってしまった。

 このとき、座が少し混乱した。ラマ全員が気忙しく、内と外に出入りして、ウェンシーを励ました。まもなく、マルバ師父が平静になり、ある弟子に言った。

 「師母を探してこい!」

 師母がやってくると、師父が問うた。「アバの兄弟子らは、どこに行ったのだ」

 「アバ・ラマとその他の人たちは皆、外で怪力君を励ましているのですよ。怪力君は苦痛の余り、絶望して、自殺しようとしたのです。それをアバ・ラマが見とがめて、馬鹿な事をしないようにとたしなめているのです」

 「ああ!」師父はこれを聞くと、涙を禁じえずに嘆いた。「こんなにもいい弟子、上乗に至る各種の条件を備えたものが、そんなにも苦痛にあえいで…彼らを呼んできなさい!」

 弟子はこれを聞くと、すぐに外に出てアバ・ラマとウェンシーに中に入るように言った。

 「師父が私を呼ぶはずないでしょう」、ウェンシーは緊張して言った。

 「誰も私が中に入ることは希望していないよ。わたしのように罪深い人は、中に入っても師父が怒るだけで、他に何もないさ。師父が落ち着いていたとしても、私が行ったらまた怒り出して、罵られるのがおちさ」

 「君は、怪力君のこの話を師父に取り次いでくれ。怪力君が本当に師父のところに行っても良いのか聞いてくれ」。アバ・ラマはその弟子に言った。

 その弟子はまた師父のところに戻って、その話を取り次いだ。

 「もし以前なら、怪力の言ったことは間違ってはいない。しかし今は違うのだ。もはや彼は、打ち据えられたり、罵られたりすることを恐れる必要はない。かえって私は彼を主客として迎えよう。ダメマ!彼らを中に入れなさい!」

 師母はこれを聞くと、急いでウェンシーを探し出し、嬉しそうに言った。「怪力君!あなたも中に入ってもいいそうよ。今度は、あなたは主客として迎えられるそうよ。あなたはもう恐れることはないわ。私も罵られたり、怪しまれたりすることもなかったし。あなたは師父の慈悲心を引き出したのよ、さあ早くお入りなさい」

 「本当に?」、彼は心中で問いかけた。彼は実際、自分の耳が信じられなかった。心傷の余り、聞き違えたのか。しかし、師母は彼に中に入るのを催促しているし、アバ・ラマもそれを待っていたので、彼もわけのわからないうちに入っていった。

 皆が入るのを待って、師父は微笑みかけて言った。

 「このたびは、怪力君が諸般の事情の中心となっているので、彼を主客として迎えることにした。その原因、及び経緯ついて全て皆さんに聴いてもらうことにする」

 (続く)
 

(翻訳編集・武蔵)