グレイス・オグレンさんは、自殺について考え始めるまで、自分がうつ状態にあったことに気づいていませんでした。
「少しずつ積み重なっていって、どれほど深く落ち込んでいたのか、自分でも見えなくなっていました」と、彼女はエポックタイムズに語っています。
この「思考の積み重なり」は決して珍しいものではありません。これは「自己焦点化」と呼ばれる、いわばデフォルトの精神状態です。自分の考えや感情、計画に注意を向け続ける傾向があり、暗い考えやつらい経験、否定的な感情に囚われると、メンタルヘルスに大きな影響を及ぼします。
『Journal of Neuroscience』に掲載された最新の研究では、科学者たちが早期警告の兆候を見つける手がかりに近づいている可能性が示されました。コロンビア大学の研究チームは、自己焦点化が始まる直前に現れる特有の脳パターンである「プレセルフパターン」を発見しました。研究者たちは、このパターンを検出・認識できれば、ネガティブな思考傾向を予測でき、うつ病や不安障害を抱える数百万人に、より良い支援が可能になるのではないかと仮説を立てています。
ただし、自己焦点化思考は、神経的要因、遺伝的要因、環境要因が複雑に絡み合って生じるため、脳活動だけでメンタルヘルスリスクを正確に予測することは困難です。現時点では、自分の思考を意識的に観察し、物事の捉え方を積極的にリフレームすることが、より現実的で効果的な方法とされています。
すべての内向的思考が同じではない
脳パターンの話に入る前に、内向的な思考にも種類があることを理解することが重要です。
自己反省や内省は、自分の性格や行動、動機について意図的に振り返るプロセスであり、感情的・精神的な成長を促す、健全で思慮深い行為です。
一方、自己焦点化は、自分の考えや感情、計画に注意が向きやすくなる、より自動的な傾向を指します。中立的、あるいは肯定的に働く場合もありますが、これが反芻思考に変わると問題が生じます。
不適応的な自己焦点化、すなわち反芻思考とは、ネガティブな考えや過去の失敗、あるいは失敗だと認識している出来事に繰り返し囚われ続ける状態のことです。ここでメンタルヘルスのリスクが高まります。
この違いを理解することは非常に重要です。健全な自己反省は人を強くしますが、不適応的な自己焦点化は、うつや不安の悪循環に人を閉じ込めてしまいます。
脳のマッピング:新たな研究分野
コロンビア大学心理学部のメーガン・L・マイヤー博士とダニカ・ガイスラー氏による研究では、自己焦点化思考に特有の脳パターンを探る中で、脳スキャンを用いて「プレセルフパターン」を特定しました。研究チームは、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)[1]を用い、32人の参加者が特定の課題に集中していない安静時に、脳内で何が起きているかを観察しました。
その結果、完全に自己焦点化した状態へ移行する数秒前に現れる、はっきりとした脳活動のパターンが確認されました。これが「プレセルフパターン」です。さらに、このパターンを人間脳接続探索継続研究の公開データと比較したところ、感情や問題を内に溜め込みやすい傾向のある人の脳も、安静時にこのプレセルフパターンを行き来していることが分かりました。
内向化、すなわち不適応的な自己焦点化がネガティブ思考のサイクルと関連していることから、研究者たちは、このプレセルフパターンによって、自己焦点化思考がうつや不安へとつながるかどうかを予測できる可能性があると考えています。
ただし、この発見はまだ初期段階のものです。科学者たちが脳パターンのマッピングに取り組む一方で、メンタルヘルスの専門家はすでに、有害な思考パターンを特定し、それに対処するための実績ある治療法、特にネガティブな思考の連鎖を断ち切る効果が高いとされる認知行動療法を活用しています。
[1]機能的磁気共鳴画像法(fMRI):脳のさまざまな領域の活動を検出する手法
自己焦点化:肯定的な側面と否定的な側面
専門家によると、自己焦点化思考がもたらすメンタルヘルスへの影響は、その思考のタイプによって大きく異なります。
「自己焦点化思考は、感情的な成長にとって有用なツールになり得ます」と、Thriveworks認定心理士のジャン・ミラー氏は、メールでエポックタイムズに語っています。
これは「適応的自己焦点化」と呼ばれ、自分の行動や環境、経験を振り返りながら、時間とともにより良い反応や対処を身につけていく助けになります。
一方で、否定的、あるいは不適応的な自己焦点化は有害です。
「不適応的自己焦点化には、過去の失敗だと認識している出来事への反芻、強い自己批判、個人化(直接の関係がなくても、悪い結果を自分のせいにすること)、破局化(『すべてが最悪の方向に進む』と考えること)が含まれます」と、ミラー氏は説明しています。
問題解決につながるどころか、不適応的な自己焦点化は人をネガティブな思考のサイクルへと引き込みます。ストレス専門家であり臨床心理学博士、Horizon Recoveryで神経心理学主任を務めるエイミー・セリン氏は、これを「絶望のループ」と呼んでいます。
「反芻や心配、ネガティブなセルフトークに入り込むと、脳内のつながりが強化され、時間とともにその状態が悪化していきます」と、彼女はエポックタイムズに語りました。
オグレンさんにとって、このネガティブな精神状態は、あまりにも当たり前のものになっていました。家族が引っ越した後、13歳の頃から、世界との関わり方が周囲と違うと感じ始めたといいます。
「兄弟も同じ経験をしましたが、私の対処の仕方はまったく違っていました」と、彼女は振り返ります。
彼女にとって、うつ的な思考は「普通」の感覚になっていました。
「『これは良くならない』と思い込み、その証拠を探し始めたんです」と彼女は言います。「それがさらに暗い方向へと私を導き、このサイクルを強めていきました」
自己焦点的な脳で何が起こるのか
自己焦点化に関連する脳の接続は、前帯状皮質(ACC)や後帯状皮質(PCC)など、複数の脳領域で起こります。ACCは意思決定や感情処理といった自己焦点的な活動に関与し、PCCは記憶や内向的な思考と関連しています。
ACCは過去の経験を記憶・追跡し、学習を通じて行動の結果を予測するのを助けると、ネバダ大学ラスベガス校の心理学准教授で心理学博士のジェームズ・ハイマン氏は、エポックタイムズに語りました。過去の経験と一致しない結果が生じた場合、脳はそのフィードバックをもとに、将来の反応を調整するはずだといいます。
しかし、うつ状態ではこの予測誤差の処理が「少し狂ってしまい」、不快な結果に対して脳が過剰に反応すると、ハイマン氏は指摘します。その結果、困難な状況にうまく適応できず、うつ病の人は、経験が常にネガティブなものだと信じ始めてしまいます。
ここで、脳の第三の要素として、デフォルトモードネットワーク(DMN)が、うつや不安に関与している可能性が出てきます。
DMNは、安静時や静かな覚醒状態にあるときに自動的に活性化する、複数の相互に接続された脳領域のネットワークです。脳が特定の作業に集中していないとき、DMNがオンになり、白昼夢やマインドワンダリング、個人的な経験の想起、未来の想像、感情や社会的なやり取りの振り返りといった、内向的な思考プロセスに注意が向かいます。
一部の研究では、うつ病の人ではDMNの活動が変化していることが示されています。特に、DMNを構成する脳領域同士の接続が通常より強くなっており、これが反芻思考にDMNが積極的な役割を果たしている理由の一つと考えられています。
「反芻は、脳の中でさらに反芻を生み出します」と、ハイマン氏は述べています。
うつ状態では、ネガティブな経験に対して脳が過剰に反応するため、デフォルトの思考パターンが時間とともに暗いものになっていきます。反芻のパターンが形成されることで、不適応的な自己焦点化が当たり前となり、「絶望のループ」に陥ってしまいます。
機能的接続性(functional connectivity)と呼ばれる、脳の協調的な活動パターンは、MRIでは血流が増加している領域として現れ、複数の脳部位が同時に活動していることを示します。一緒に頻繁に活性化する領域ほど、強い接続が形成されやすくなります。
ただし、現在の脳科学では、なぜ一部の人がこのような不適応なパターンに陥りやすいのか、その正確な理由を特定することは難しいとされています。
脳パターンで精神疾患は予測できるのか?
コロンビア大学の研究は、症状が現れる前にプレセルフパターンを検出することで、うつや不安のリスクが高い人を特定できる可能性があるのではないか、という問いを投げかけています。
これに対し、ハイマン氏は「ほぼ達成不可能です」と述べています。親と子の脳パターンの類似性を調べた研究からは遺伝的な関連が示唆されるものの、「環境要因から切り離して検証した質の高い研究は、まだ見ていません」と付け加えました。
認定マスターソーシャルワーカーで心理療法士のジャネル・コールマン氏は、クライアントのメンタルヘルスリスクを評価する際、脳以外の要因、つまり家族や友人、コミュニティからの強い社会的サポートがあるかどうかを重視しています。
「一人で過ごす時間が多いと、不適応な思考パターンに陥るリスクが高まります。『おめでとう』と言ってくれる人がいないからです」と、彼女はエポックタイムズに語りました。
セリン氏も、メンタルヘルスの状態を正確に予測するのは難しいとしながらも、すでに存在する反芻パターンを評価することで、ネガティブな思考がどこへ向かい、介入がなければ人生にどのような影響を及ぼすかをある程度見通すことはできると述べています。
ネガティブな自己焦点化から抜け出す
脳スキャンでうつを予測できるかどうかにかかわらず、専門家たちは、ネガティブな思考パターンに気づき、それを中断することがメンタルヘルスにとって重要であるという点で一致しています。
ケイティ・パーカー氏は、同僚の車にはねられて発見されました。一瞬にして、旅を続ける生活から、夫に支えられる入院生活へと変わり、重度の不安と心的外傷後ストレス障害と診断されました。
仕事も自己ケアもできなくなったことが、彼女を絶望と抑うつへと追い込みました。
「この仕事を辞めたら、私には何が残るの? もう価値がない」と、彼女はエポックタイムズに語っています。
クリスチャンである彼女は、神が仕事を通じて奉仕を求めていると信じており、「辞めたら神を失望させ、周囲の人も失望させる」と感じていました。
その葛藤は、自殺念慮にまで発展しました。
「でも、本当に死にたかったわけではありません」と、彼女は言います。「あのときの人生を、これ以上生きたくなかったのです」
助けを求めるまでには時間がかかりましたが、適切なサポートに出会い、彼女は認知行動療法の一つである「ダウンワードアローテクニック」を学び、不適応な思考パターンの背後にある誤ったコアビリーフを特定する助けを得ました。
回復の過程で、ジムでうまくできなかった出来事が重要な気づきにつながりました。セッション後、「自分はバカだ」「何もできない」と感じた彼女に対し、セラピストはこのテクニックを使って、思考の根源を幼少期までさかのぼらせました。
「私は『自分はバカだ』というコアビリーフにたどり着きました。子どもの頃に、誰かからそう言われたんです」と、パーカー氏は語っています。
彼女はその経験を捉え直し、当時は回復の途中であり、その時点で最善を尽くしていたのだと理解するようになりました。やがて、ダウンワードアローテクニックを自身のクリスチャン信仰と組み合わせ、聖書を根拠に他のコアな思い込みを見直していきました。現在、彼女はトラウマインフォームドなウェルビーイングライターであり、悲嘆と喪失のコーチ、そしてメンタルヘルスのメンターとして活動しています。
Recovery.comのライター兼研究者となったオグレンさんも、「事実を確認する」ようなプロセスを通じて、ネガティブな自己焦点化思考を正当化する段階から、それが誤りであると気づく段階へと移行しました。
「とても小さなところから始めて、その考えが本当ではない理由や、必要ではない理由を一つだけ探しました」と、彼女は語っています。
実践的なステップ
誰でも、こうしたテクニックを通じて、不適応なメンタルパターンを乗り越える第一歩を踏み出すことができます。
コールマン氏は、内向的になっているときの思考を書き留めることを勧めています。そうすることで、自分の思考の傾向が見えてきます。そのうえで、「これは私について何を意味しているのか」「どこまでが本当なのか」といった問いを投げかけ、性格や動機を丁寧に見つめる本当の自己反省を行い、コアビリーフを明らかにし、捉え直していきます。
ハイマン氏は、自分自身への語りかけ方に注意を向けることも勧めています。ACCは言葉をモニターしており、自分に対してネガティブな言葉を投げかけると、脳は他人から悪口を言われたときと同じように反応します。一方で、「逆のことをすれば、他人から褒められたり励まされたりしたときと同じような、良い効果が得られます」と、彼は付け加えています。
これが、不適応な思考から抜け出すうえで、サポートネットワークが重要な理由の一つです。コールマン氏が指摘するように、周囲にポジティブな言葉をかけてくれたり、現実的な視点を示してくれたりする人がいることで、うつや不安のパターンに陥りにくくなります。
オグレンさんは、セラピスト、両親、そして教会の中で、そうした支えを見つけました。
「彼らがプロペラのように、私を前に進ませてくれました」と、彼女は言います。「良くなれると信じてくれる人がたくさんいて、それが本当に大きな支えになりました」
(翻訳編集 日比野真吾)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。